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ミステリの祭典

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カバラの呪い

作家 五島勉
出版日1976年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/07/25 15:49登録)
(ネタバレなし)
 1975年7月24日。愛知県の渥美半島の海岸に、巨大怪獣の腐乱死体が漂着する。テレビ局の下請け「沖田取材プロ」の代表で20台後半の沖田淳は、自社の女優兼レポーターで恋人の小泉マリを伴って現地に駆けつけ、TVニュース特番用の映像を作成した。だがかつての同僚で仕事仲間のテレビ局局員・佳島を介してオンエアされるはずのフィルムは闇に葬られ、一方で怪獣の死骸も人目につかないよう始末された。怒りに燃えて真相を追う淳とマリだが、その前に広がるのははるかに予想を超えた事態であった。

 ふと思いついて1976年の元版(ノン・ノベル版)を、web注文の古書で購入。届いたらすぐいっきに読了。
 昭和生まれの人間として、作者・五島勉についての風聞はそりゃいろいろと聞き及んでいるが、「ノストラダムス」関連の路線を含めて著作はまともに一冊も読んだことはなかった。
 ただし本作については「長編怪奇推理」と銘打たれ、刊行当時の書評や紹介記事などで怪獣(というかUMA)が出てくる伝奇SFっぽいことは当初から認識にあり、そういうものが大好きな身としては相応に興味を惹かれていた。
(なんせ評者は、グラディス・ミッチェルで今のところ一冊だけ読んでるのが『タナスグ湖の怪物』という人間である。)

 そういうわけで極力、フラットな気分でページをめくり始めたが、いやいわゆる『MMR マガジンミステリー調査班』的なお話としては結構、面白かった(笑)。序盤の怪獣の掴みがなかなか秀逸だし、話の広げ方のテンポも良い。途中からの主人公・淳の行動の(中略)ぶりは作劇を優先した感じで、いささかアレだが、その辺は良くも悪くもエンターテインメントの作法としてギリギリ割り切れる範疇ではある(それでも、ちょっと……と思う人もいるかもしれないけど?)。
 いずれにしても中盤のアホなノリはかなりの勢いで、ここではあまり書くわけにいかないが、某集団の作戦の細部の詰め方などには爆笑した。まあここらは作者はマジメな、天然っぽい面白さであろうな。

 膨大な情報を並べ立てて大噓を説得にかかるダイナミズムも、実にこういう作品らしいという感じ。いやきっと専門の識者やサブカルオカルト系の愛好家が21世紀の今、改めて読んだらたぶん色々とツッコミどころは満載なのであろうが、それでも1970年代のキワモノエンターテインメントとしては十分にオモシロかった。
 五島の著作を原作にした東宝映画の方の『ノストラダムスの大予言』を小説メディアで楽しんだような、そんな感覚もある。タマにはこういうのもいいよね?

 ちなみにノン・ノベル版は裏表紙で中盤からの大ネタを割ってあるので、これから読もうという人は注意。まあ編集や営業は、そこまでショッキングなネタを書いて、本を買わせたかった、そんな意向だったのであろうが。
 21世紀の今、もしかしたら、先述のそういう趣味のオカルト、サブカル系の人には、すでに完全に古くなってしまっている内容かも知れないが、一見の読者である自分にはとにかくフツーにオモシロかった。
 なんかムセキニンだったら、ゴメンなさい、である。

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