(2021/07/17 17:03登録)
(ネタバレなしです) 米国のホレーショ・ウィズロウとレスリー・カーク(どちらも作者プロフィールについてはよくわかりません)が1928年に発表した本格派推理小説で、本国でもほとんど忘れられた存在だったようです。摩訶不思議な方法で姿を消して追跡者を煙に巻き続けた犯罪者「セイラム・スクープ」があっけなく列車事故での死亡が確認されて埋葬されたところから物語が始まります。そしてかつて偉大な奇術師として名を馳せた男を招いてイカサマ霊媒のトリック暴く会が開催されるのですが、犯罪学者が持参した石板に「あなたの部屋でお待ちしています」とセイラム・スクープからのメッセージが浮かび上がり、犯罪学者の家にかけつけると家政婦から謎の訪問者が光と煙と共に消え失せたという話を聞かされます。休む間もなく今度はセイラム・スクープの墓を暴くために急行するというハチャメチャな展開に序盤から読者は振り回されます。その後も怪現象、怪事件が相次ぎ、ポール・アルテや小島正樹が得意とする、謎を大盤振る舞いする本格派の先駆的作品といえるかも。トリック説明は後年のクレイトン・ロースンに比べると上手いとは言い難いし、そもそも推理が論理的でなくてかなり粗い謎解きなのは読者の好き嫌いが分かれると思いますが、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーがデビューするよりも前にこういう作品が書かれていたのは驚きです。推理小説の読者タイプの分類や消失トリックの分類まで作中でやっているのも先駆的ではないでしょうか。
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