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ミステリの祭典

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別の人

作家 カン・ファギル
出版日2021年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 小原庄助
(2021/07/17 10:23登録)
いわゆるデートDV、親密な関係の相手からの暴力行為を発端に、ひとりの女性が過去と向き合う物語。
有能な上司で、みんなの憧れの存在であるイ・ジンソプと交際したジナは、当初殴られても彼の怒りを誘発したのは自分だという認知の歪みに陥る。しかし暴力はやまず警察へ。罰金のあまりの安さに、告発を決意する。
だが真の地獄はここからだった。インターネット上に現れたのはジナへの誹謗中傷と、野次馬の好奇の目。プライバシーと過去が暴露されていく。
本書は、二次被害のむごさと同時に、ジナの多面性もとらえる。彼女はある書き込みにより、自らの故郷、そして大学での記憶に再度直面することになるのだ。
死んだ同級生、堕胎した友達、片想いの先輩をものにした恋のライバル、短期間だけの恋人。ジナ自身、決して清廉潔白ではない。
複雑な人間関係は、加害と被害をときに反転させる。力の不均衡に屈した経験が、人生にどんな影響を及ぼすのか、本書は描き出す。シリアスな出来事の連続で、思わずページを閉じたくなるほどだが、これは誰の身にも起こりうることの警告の書でもあるのだ。読後感は温かく、救いがある。

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