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ミステリの祭典

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人みな銃をもつ
私立探偵シェル・スコット

作家 リチャード・S・プラザー
出版日不明
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2026/02/25 11:12登録)
「名探偵登場6」でシェル・スコットくんを見かけたこともあって、急遽やる気になった。手元に「別冊宝石121現代ハードボイルド特集」があったからね。海兵隊上がりのタフガイ、髪だけでなく眉毛までプラチナブロンドのゴツいアンちゃんシェル・スコットである。で本作では朝10時に自分の探偵事務所に入ろうとテナントビルに入ろうとするといきなり二発も狙撃をくらう。「ロサンゼルスの下街のどまんなかで、右の耳をヒューンと掠めて最初の弾丸が飛んでいったときも、こっちはすぐには気がつかなかった。何のことやらさっぱりわからなかった」というオープニング。こういうあたり、常套には違いないけど、いきなり渦中に飛び込んじゃうあたりが、通俗ハードボイルド感満載。

まあこの話自体、ギャングの大ボスと新興勢力の抗争にスコットが巻き込まれる話といえば身も蓋もない。いわゆるミステリ的興味というよりも「アスファルト・ジャングルのターザン」の活躍譚というべきもの。でも軽いユーモア感のある軽妙に書かれた娯楽小説。赤川次郎だと思えば、別に悪いわけでもないよ。

それ以上にこの雑誌にいくつか載っているカラム、田中潤司「別冊鬼の手帖」では

シェル・スコットは一種のスーパーマンであることは間違いないのだが、ほとんどの作品で、敵方に無惨なまでに翻弄されてしまう。プレイザーは主人公にピエロ的な役割を果たさせて読者のご機嫌を取り結ぶのだ。(中略)スマキにされて断崖からほうりこまれたりするシェル・スコットの哀れな姿を見ると、私はすっかり嫌になってしまう。

とか散々な言われ方をするし、

青木秀夫「行動派探偵紳士録」では、通俗ハードボイルドが「セックスとサディズムに堕している」と散々な悪口を言われ「一日五十ドルから百ドル、それにプラス必要経費で働く高級ニコヨン」とまで言われてしまうw
権田万治「ホードボイルドの末裔たち」では、喜劇的になっているカーター・ブラウンやプラザーをひっくるめて「このようにしてハードボイルド派の推理小説は衰退の一途をたどっている」とするわけだ。

というわけで、スピレインへの反発を前提とした、通俗ハードボイルドに対する日本の批評家の手厳しい目が窺われるのだけども、それでも当時「マンハント」などで通俗ハードボイルドが隆盛を極めていて、読者人気も高かったということが、どうも見逃されがちでもある。

だから作品と批評の温度差がこの雑誌では一番面白い。都筑道夫の「スピレインとその周辺」がいかに公平かつ洞察力に富んだ評論だったか、とも思うわけだよ。

No.1 5点 人並由真
(2021/07/14 05:53登録)
(ネタバレなし)
「わたし」ことロサンゼルスの私立探偵シェル・スコットは、ある日、事務所に、謎の男の襲撃を受ける。拳銃で脅して自分をどこかへ連行しかけた相手を押さえ込み、警察に突き出すと、賊は、人気ナイトクラブ「ピット」の経営者マーティ・セイダーの身内のオージー・ヨークとわかる。セイダーは少し前のスコットの仕事の依頼人で、暗黒街の大物コリアー・ブリードを調査させたことがあった。その直後、スコットの事務所の周辺をうろついていた赤毛の美女が、いつのまにか姿を消した。遺留品から彼女は、セイダーの店ピットの歌手アイリス・ゴードンだと判明。気になる事態の連続のなか、スコットはセイダーに会いに出かけていくが。

 1951年のアメリカ作品。シェル・スコットシリーズの長編第三弾で、日本では、別冊宝石121号「現代ハードボイルド特集」(昭和38年8月15日刊行)に看板作品として一挙掲載。翻訳は山下愉一。

 評者はシェル・スコットシリーズの長編は、21世紀に発掘翻訳された『墓地の謎を追え』を最初に読んだのち、改めてシリーズ第一弾の『消された女』から順番に手にとってきた。
 つまりこれで都合4長編めになるのだけれど、<私立探偵小説枠の中の、フーダニットミステリ>としては、コレが一番薄味であった。

 じゃあ今回はどういう方向の内容かというと、暗黒街の大物ブリードにちょっかいを出したワルの中堅セイダー、その双方の軋轢に、メインゲストのヒロイン、そしてスコットが巻き込まれて行く話筋立てだ。推理小説というよりは「私立探偵の仕事の日々の中にはこういうトラブルもあるよね」と作者が言いたげな話。
 なんか私立探偵の事件簿の中に生じる、ある種のケーススタディを提示されているような趣がある。
 ずっとのちの<都会の西部劇>スペンサーものの先駆みたいにも思えた。

 そのくせ終盤の方で、なんか律儀に殺人事件とその真相についてのサプライズも用意してあり、急にミステリ成分がやや濃くなるのもちょっと意表を突かれた。
 まあパズラーっぽいとか、フーダニットの興味とかそういうのではないが、最後の方で、意識的にミステリ読者の目線を気にした作劇を設けたのは確か。
 同じ別冊宝石のコラム記事、作家紹介の個所で田中潤司が作者プラザーと主人公スコットに言及し、意外にハードボイルドヒーローらしくなく、時にはかっこ悪い目にもあう、という指摘をしているが、まあその辺は個人的には、分かるところ半分、そうでないところ半分、という気分。だって、スペードも、マーロウも、ハマーも、みんな広義での<カッコ悪い>ところもまた、魅力ではあるので。
 そーいやスコットの一人称での内面描写に、いきなりサム・スペードの名前が出てきてビックリした(この別冊宝石でのP110)。スコットが先輩探偵を、少なくとも一面で、どういう風に思っているのかが窺えてニヤリとする。

 一冊の長編としては、スコット危機編としてもうちょっと引き締まったサスペンスで盛り上げればいいのに、とにかく中盤が丁寧すぎて冗長(その分、終盤の転調が印象的ではあるが)。
 このシリーズをスナオな謎解き枠のミステリばっかにしないよという、当時の作者の若さは感じるんだけれど。
 シリーズのファンの人は、変化球的な一本というつもりで付き合ってみてくださいな。 

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