(2021/07/11 22:30登録)
(ネタバレなしです) 2017年発表のフルダ・ヘルマンスドッティル三部作の最終作です。この作者の「雪盲」(2010年)を読んだときには自然描写が物足りなく感じましたが本書の厳冬描写はなかなかの迫力を伴っています。第一部での大雪でクローズド・サークル状態となった農家に住む夫婦と道に迷った訪問者の3人の間に緊張感が高まっていく展開は一級のサスペンス小説です。並行してフルダの家族問題も描かれますがこちらはミステリー要素はありませんけどやはり悲劇色が濃厚で、作品の重苦しさに拍車をかけています。そして第二部が捜査編ですが容疑者との事情聴取のない捜査となっているところがユニークです。ここは倒叙本格派推理小説なところもありますが論理的な推理がほとんどなく、感覚的な当て推量に近いので謎解きとしては不満があります。どんでん返しが効果的なだけに惜しまれます。それにしても三部作を通じて描かれるフルダの人生の救いのなさはあまりにも重い、何もここまで重くしなくても。あと余談ですが阿津川辰海による巻末解説で「アイスランドのアガサ・クリスティ」を引用しているのはこのパズル性の弱い作品にはふさわしくないと思うし、そもそも「アイルランド」と誤植しているのはいけませんねえ。
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