home

ミステリの祭典

login
殺人よさらば

作家 ジョン・ラックレス
出版日1981年02月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2021/07/09 15:56登録)
(ネタバレなし)
 1970年代の後半。CIAの秘密暗殺工作員チーム「Oグループ」に所属する38歳の技術者エドワード(エディ)・マンキューゾは、もともと天才発明少年だった才能を評価されて、18歳の時から諜報活動の裏世界に入り、Oグループの暗殺者のために無数のトリッキィな暗殺道具を考案してきた。そんなエディはそろそろこの世界からの足抜けを考えるが、長年の機密に深入りしすぎた自分の順当な勇退など、認可されないと認識。自分がこの世界から去るには、Oグループの主幹5名の抹殺が先に必須だと考える。だがCIAのスーパーコンピューター「サイバー」は、エディのこの思惑を察知。Oグループの面々に事態の緊急性を伝えて、先手を打つようアドバイスした。そんな一方、ソ連では、KGB内部の40代後半の技術者でエディとほぼ全く同様の職務につくワシーリイ・ボルグネフが、同じように所属組織からの足抜けを考えていた。ワシーリイは、自分とそして実はエディの共通の彼女である謎の女性「チャリス」を介して、メキシコでエディに接触。互いの標的を交換すればそれぞれの暗殺はスムーズにいくとして、CIAとKGBを股にかけた計画的な交換殺人を提案する。

 1978年のアメリカ作品。集英社文庫版で読了。
 エンターテインメント(広義のミステリ)のガイド本として秀逸な「100冊の徹夜本」(佐藤圭)の中でホメられている一冊で、もともと翻訳刊行当時にもミステリマガジンだったかEQだったかの書評でもそれなり以上に高評を授かっていたような覚えがある。
 
 要は都筑の『飢えた遺産(なめくじに聞いてみろ)』みたいな外連味豊かな殺人テクニック(またはデバイス)の羅列を、スパイ小説の枠内でしかも交換殺人という趣向を加えて語るという、かなりキテいる作品。末端の個人(たち)が諜報組織を翻弄という意味で、ガーフィールドの『ホップスコッチ』みたいな趣もあるかもしれない。
(なお主人公コンビの殺人手段は、かなり毒殺のバリエーションを重視している~そればかりではないが。)

 文庫版で400ページとちょっと厚めだが、2人の主人公が、合算10人前後の標的を相手にして、さらに側杖を食うもののアクシデントや敵側の増援なども登場して、消化しなければいけないイベントのタスクは多いので、お話はこれ以上なくサクサク進む。一晩でいっきに読み終えてしまった。

 ストーリーの流れがマンネリになりかけた時、CIA側の前線に某重要人物が参戦してきて、展開に明確な弾みをつけるのも実によろしい。
 謎のヒロイン「チャリス」の正体は見え見えで、さすがに読んでいてこの素性(本名)を察しない読者はいないだろうと思うが、その辺は作者たち(コンビ作家だ)も重々承知のようで、適度なタイミングで底を割ってさらに奥のドラマへと移行させる(もちろんあんまり書けないが)。このあたりの呼吸も実にヨロシイ。

 翻訳の田中融二が文庫のあとがきで語る通り、シリアスに見えて戯作性の強い異色スパイアクションだが、それでも核となるキャラクタードラマの一部には相応の手ごたえがあり、終盤でさらに明確になる某メインキャラの内面の描写にはずっしり重いものもある。それでもそれらを全部ひっくるめて、エンターテインメントにしてしまう奇妙な器の大きさを感じさせる作品でもあるのだが。

 評点は、テンポの良さがとても快いし、不測の事態などのイベントも相応に用意して緩急もつけてある達者さも認めるのだが、どこかよろしくない意味での軽さも拭えないでもない。もしかしたらこちら読む側のある種のないものねだりかもしれないが。
 評点は0.25~0.5点くらいオマケかな。 

1レコード表示中です 書評