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ミステリの祭典

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陽光の下、若者は死ぬ(角川文庫版)

作家 河野典生
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/07/08 14:58登録)
(ネタバレなし)
 角川文庫(昭和48年6月30日初版)版。
 以下の全7編の(まあ初期の)中短編を収録。

「陽光の下、若者は死ぬ」(1960年・日本版ヒッチコックマガジン)
……時代の空気に満ちた過激派のテロ模様を、技巧的な叙述で語る一編。読みながら(再読しながら)掲載誌の印象的な扉ページの挿絵をなんとなく思い出していた。

「溺死クラブ」(1959年・宝石増刊号)
……裏世界の一角に集合した殺し屋たちの人間模様。ハードボイルド小説のパロディと自称する作品だが、渇いた感覚と凄絶なまとめ方は照れるにおじず、という感じ。

「憎悪のかたち」(1962年? 宝石)
……黒人とのハーフの不良少年を主人公にした青春クライム・ノワールで、本書中でも筆頭に骨っぽい中編。終盤、加速度的な燃焼を実感させる。ねじくれた抒情ぶりがたまらない。

「ガラスの街」(1967年・推理界)
……若者を主題にしたドキュメンタリー番組を手掛ける中年のTVディレクター「わたし」を語り手にした一編。昭和の映像文化もの、業界ものの興味を備えたハードボイルドミステリの趣があり、実質的な主人公(ヒロイン)といえるズベ公娘ミミの肖像、そして彼女を取り巻く男女の大人たちの素描が心にしみる。

「カナリヤの唄」(1969年・週刊サンケイ)
……バイクを駆る不良少年少女たちと訳ありの中年との邂逅を、独特のベクトル感覚で語る話。やがて明かされる中年男の文芸設定が理に落ちすぎている気もしたが、これはこれでいいかも。メインキャラの娘、順子(ジュン)は、ああ、こういうのが河野作品のヒロインだなあ、と思う。

「新宿西口広場」(1969年・オール読物)
……デパートガールの村田沙子が接点を持った、とある非日常的な、それでも日常の話。執筆された時代の都会の乾いた空気を感じるような一編で、ラストの余韻もよい。

「ラスプーチンの曾孫」(1970年・別冊小説現代)
……酒場で働くロシア系の娘が、怪僧ラスプーチンの血脈だと暗示を与えられて(……といっていいのか)、だんだんと暴走してゆく短編。ほかのエピソードとは明らかに毛色が異なる方向性なのだが、それでもどこかに河野作品らしい、この作者らしい個性を感じる。このクロージングもかなり余韻があってよい。

「殺しに行く」(1971年・オール読物)
……ヤクザ組織の抗争のなかでとある事態の深みにはまっていく、在日朝鮮人の青年の話。先の「憎悪のかたち」同様のマイノリティの日本人設定の主人公で、先行作と読み比べるのも興味深い。およそ10年の時を隔てて、作者の意識のなかで何が変わって、何が変わってないかが何となくながら見えるような気がしないでもない。

 以上7編。ゆっくりちびちび読むことを推奨。評者は後半、さる事情からほぼいっきに読んで、少し胃にもたれた(汗)。

【追記】
1960年刊行の、同じ書名の荒地出版社の短編集は内容は別もの。
以下に参考のために、そちらの荒地出版社版の方の収録作品を列挙しておく。

「狂熱のデュエット」
「腐ったオリーブ」
「溺死クラブ」
「ゴウイング・マイ・ウェイ」
「日曜日の女」
「かわいい娘」
「殺し屋日記」
「陽光の下、若者は死ぬ」
あとがき

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