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ミステリの祭典

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夕ばえ作戦

作家 光瀬龍
出版日1983年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/07/08 13:27登録)
(ネタバレなし)
 目黒区の大岡山中学の一年生・砂塚茂は、ある日、古道具屋の店先で奇妙な円筒状の機械を見つけ、500円で購入する。だがその機械が作動すると茂は江戸時代の荏原村(現在の目黒、品川、大田区ほか)にいた。そこでは幕府公儀の隠密に召し抱えられる約束で土地を差し出しながら、その実、理不尽に冷遇されていた風魔忍軍が、幕府直下の伊賀忍軍、そして荏原郡の一般人を相手に、無差別テロの凶行を働いていた。事情を知った茂は風魔の逆境に一縷の憐憫を覚える一方で、罪もない人々への殺戮は、やはり許せないと考える。やがて茂は謎の円筒がどうやら素性不明のタイムマシンで、自在に江戸時代と20世紀を行き来できると確認。20世紀の科学技術を導入して、風魔に苦しめられる荏原群の代官・小泉右京大夫や伊賀忍軍の精鋭・地虫兵衛たちを支援する。だがそんななか、たまたま江戸時代へのタイムリープに巻き込まれた茂の担任の女性教師・田中敬子が風魔の人質になってしまう。

 角川文庫版で読了。
 元版は、1967年の盛光社(後に鶴書房盛光社)の「SFベストセラーズ」。初出は、1964~65年の「中一時代」「中二時代」に『夕映え作戦』の題名で連載。

 昭和の名作ジュブナイルだが、21世紀の今読むと、ほとんど異世界もののラノベ風というか「なろう」系のノリというか。
 まあ20世紀と江戸時代前半の過去世界を自在に行ったり来たりできるというその一点だけでも、主人公(とその仲間たち)には科学技術的、物量的なアドバンテージがあり、それこそ星の数ほどもある<異世界に行ったっきり(来てしまったきり)>のSFまたはファンタジーよりは有利である。
 それでもソコは現実の中学生がそうそう過去の戦乱にのみ没頭できないというリアリティなども加味されて、恵まれた主人公のサイドのズルさなどはあまり感じさせない。
 むしろあえて気にするなら、中学生がいくら非道な敵忍者とはいえ、安易に相手を殺傷しすぎること。まあ昭和の作品だから、いいんだけれどね(いいのか)。

 中盤から敵の風魔側に、男なら全軍の指揮官になれたはずと評価される天才的な戦士の資質の、美少女くノ一の風祭陽子が登場。本作の実質的なヒロインで、この娘が活躍してからはいっきに今風のラノベというか深夜美少女枠アニメっぽくなる。これはこれで、時代を超えたこの手のジャンル作品の普遍的な興趣を覗くようでよろしい。
 当然、茂とも絶妙な距離感で後半のドラマを築いていき、連載当時は男子、女子、双方の読者ともに、さぞ盛り上がったろうなあ、と思われる。

 大設定の(中略)の部分があえて(中略)に済まされたまま終焉するところとかは、ジュブナイルながらも作者の割り切ったSF観を実感する。
 というか、敵役の風魔忍軍、一面では傲慢な幕府の被害者でもあるとする文芸とか、やはりウマイよね。
 余韻のある(あえて饒舌に語らなかったともいえる)クロージングも鮮烈で、一番近い食感で言ったら、1960年代の石森章太郎漫画(それも短中編~コミックスで2冊分以下の短めのもの)あたりであろう。

 1974年の「少年ドラマシリーズ」版は、評者も本放送も再放送も観たことがない。映像(ビデオ媒体)は現在では完全に幻になってしまったようだが、今更だけどちょっと観てみたい気はする。まあ奇跡でも起きて発掘されるのを待ちましょう。
 2008年のコミカライズ版の方はそのうち。
 
 なお小説の続編が最近同人誌の形で復刻されたようなので、勢いで買ってしまった。結構高い値段ではあった(涙)が、もしかしたら買わずに放っておくと、後悔するかもしれないので(汗)。

 評点は0.5点くらいオマケで。

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