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ミステリの祭典

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オレンジ色の屍衣
トラヴィス・マッギー

作家 ジョン・D・マクドナルド
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/07/06 07:17登録)
(ネタバレなし)
 その年の5月。「わたし」ことトラブル・コンサルタントのトラヴィス・マッギーは体調も懐具合も不調だったが、そこに友人のアーサー・ウィルキンソンがほぼ一年ぶりに現れる。アーサーは成功した実業家の父の遺産を受け継いだ資産家で、危険な気配の美女ウィルマ・ファーナーと結ばれたはずだが、今では以前の好人物の面影もなく、やつれきっていた。マッギーはアーサーの元カノだったダンサーの「チューキー(チューク)」マッコールを呼び、二人でアーサーを介抱する。どうやらアーサーは、ウィルマを含む本格的な詐欺集団の餌食となり、全財産を巻き上げられたらしかった。マッギーは奪われたアーサーの金を奪回すべく、行動を起こすが。

 1965年のアメリカ作品。トラヴィス・マッギーシリーズ第6弾。
 Amazonの書誌データ登録は不順だが、ポケミスは1059番で昭和43年12月15日の刊行。
 
 尾羽打ち枯らしたアーサーがマッギーとチューキーの世話になりながら、当人がどのような手口で詐欺一味に騙されて、その後数か月、どん底の中でどのような流転の日々を送ってきたかを、滔々と語る。これが(不謹慎ながら)実に(下世話に)面白い(笑・汗)。
 筆の立つ作家は、こういうところでも読者を存分にエンターテインするものだと改めて思い知った。

 とはいえ悪人の詐欺集団もまた一枚岩ではなく、多様なワル度の悪党が混成した一過性のチームであり、どこの誰がアーサーの金を実質的に現在おさえているかの探求もふくめて、マッギーは悪人ひとりひとりに対峙。そんなストーリーの流れから、また次のお話が転がっていく。
 しかしマッギーの目的は、悪事を暴くことでも悪人たちを法で裁かせることでもなく、半ば非合法な手段をとろうとも、とにかくアーサーのカネの奪還にあり、それゆえ割り切ったドライな行動を辞さないあたりも面白い。
 普通のミステリの名探偵はおろか、私立探偵小説の事件屋キャラの枠さえも踏み出している。
 
 その結果、本作は通常の、それも広義のミステリの範疇からも外れたかなり変化球的な展開をとるが、それがまた読み手を飽きさせず、テンションも高くなって面白い。
 後半3分の1~4分の1ほどの加速度的な展開は、さらにそこに行くまでの興趣を上回る盛り上がりを見せる。悪役もこのシリーズらしく、かなりキャラが立っている(まあ一番印象的なキャラは、某・美人の人妻ヒロインだが)。
 
 評者はこれでシリーズ4冊めだけれど、これはかなり出来のいい方ではないかと。

 ちなみにポケミスの裏表紙のあらすじだけど、下からおよそ5分の2ほど(「やがてマッギーは~」以降)は頗るいい加減。
 類似の場面はないこともないけれど、お話の流れは微妙に違うし、そもそも(以下略)。
 いつかのR・S・プラザーのシェル・スコットものの『消された女』の裏表紙あらすじもヒドかったけれど、こっちはもっとスゴいんでないかい。
 当時の早川編集部は5人ぐらい間に入って伝言ゲームしながら、締切間際の印刷(写植製版)所に入稿して、校正もナシだったのかとさえ思った。

 あーいつかやってみたい、ポケミスのインチキあらすじベスト(ワースト)10の選定(笑)。

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