マドモアゼル・ムーシュの殺人 |
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作家 | アラン・ドムーゾン |
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出版日 | 1983年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/06/19 16:40登録) (ネタバレなし) 1975年のパリ。零細民間調査組織「クレリヴァル私立探偵社」の一員で、40代後半のロベール・フレシューは、未亡人の老女ムーシャルドン夫人から、2年前に失踪した孫娘シモーヌを探して欲しいとの依頼を受ける。シモーヌは現在は19歳になっているはずだった。だが調査を始めたフレシューがムーシャルドン夫人の自宅に立ち寄ると、そこは何者かに襲われたあとがあり、死体が転がっていた。わずかな手掛かりからシモーヌが映画業界に関わっていると見たフレシューは、とある映画プロダクションを訪ねるが、調査を進める彼の周囲には死体が積み重なっていく。 1976年のフランス作品。 作者アラン・ドムーゾンは1945年生まれ。本作でデビューしたのち、他にも日本に2冊ほど著作が紹介されている。 (ちなみに本書は単に、作者名「ドムーゾン」のみの標記で、講談社文庫から翻訳刊行。) 半年~1年ほど前にブックオフの100円棚で見つけて購入し、このたび読んだ。 内容は、1950年代あたりまでのアメリカの私立探偵・捜査小説、その一大ジャンルの波の影響をモロに蒙ったとおぼしき当時のフランスの新世代作家が、オマージュの念を込めて書いた一作という感じ。 主人公フレーシュの内面はけっこう明け透けに語られるのだが、人生の諦観を随所に偲ばせる一方で譲らないところは譲らない、しかしプロの探偵としての器用さも見せるあたりは、総体的に十分に「ハードボイルド」している。 筋立ての組み方は、フレシューが歩き回ることで事件や人間関係が深化し、謎の殺人者による被害者も続々と増えていくという王道なもの。 しかしキャラクターはどれもこれで丁寧に描きわけられている。特に後半、窮地に陥ったフレシューが半ば四面楚歌の状況で、意外に話のわかるとある相手に出会い、その人物と事件の情報や仮説を交換する描写を通じて、同時に読者にも物語の流れを改めて整理する手際など、かなりよくできている。 終盤にはかなりショッキングな? どんでん返しがあり、これは夜中に読んでいて声を上げそうになった。もう少し伏線が欲しい……とも思ったが、とはいえこちらの希望とは別の形で、確かに割と早めに、このラストの衝撃に至る布石は張ってあった。うーん。 というわけでなかなか秀作、拾いものだとは思うのだけれど、ただ一カ所怒ったのは、翻訳した長島良三による訳者あとがき。 まったく未知の作家なので、立ち位置を調べようと本文を読む前に巻末の訳者あとがきを覗いたら、いきなりラストの顛末まではっきり書いてある。何を考えていたのか!? ミステリマガジン第五代目編集長。一時期の池央耿(このヒトもひどかった……)みたいなことするんじゃないよ。 というわけでこれから読む人は、訳者あとがきを読まないように注意のこと。 |