デストロイヤーの誕生 殺人機械(デストロイヤー)レモ・ウィリアムズ |
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作家 | リチャード・サピア&ウォーレン・マーフィー |
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出版日 | 1974年10月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/06/16 05:42登録) (ネタバレなし) 元海兵隊員で、今はニュージャージー州ニューアークの警察官の青年レモ・ウィリアムズ。彼は職務中に犯罪者を惨殺したという罪科で死刑を宣告されるが、それは身に覚えのない冤罪だった。だが電気椅子で処刑されたはずのレモは、腐敗したアメリカの浄化を目指す秘密組織「CURE(世直し)」の戦士として迎えられ、東洋人の老師チウンのもとで殺人術のエキスパートとなる。そんなレモに下された最初の指令、それは、同じCUREの同僚でベトナム戦争中の上官でもあった男コンラッド・マクレアリーを、機密上の必要から口封じすること。そしてマクレアリーが追いかけている謎の巨悪「マクスウェル」の案件を、彼にかわって対処することだった。 1971年のアメリカ作品。 1969年から開幕した『マフィアへの挑戦』シリーズ(ペンドルトン)で、予想以上の大ヒットを遂げた米国のピナクル社が二匹目のドジョウを狙って企画した、当時のペーパーバック新世代スーパーヒーロー路線、その新たなシリーズの第一冊目。 このシリーズ初期の何冊か、購入だけしておいて放っておいたのを思い出し、書庫で見つかったのをこのたび読んでみた。 社会的に市民権を抹消された立場で、イリーガルに悪党を退治する主人公ヒーローといえば、まるで朝日放送のテレビ番組「ザ・ハングマン」シリーズだが、たぶん遡ってオリジンを求めていけば、もっともっと先駆はあるであろう(そもそもその「ザ・ハングマン」より、こっちのレモ・シリーズの方がずっと早いが)。 いずれにしろ、よくいえば普遍的、悪く言えば類型的な主人公の設定なので、改めてこういうものの開幕編(の小説)というものは、どういう感じに書かれているのだろう? という興味を込めて手にとってみた。 そういう読み方でページをめくると、レモがCUREの一員となるくだりは意外にコンデンスにまとめられており、シリーズ一冊めの紙幅の大半が誕生プロセスの叙述に費やされるとか、そういうこともない。まあ必要十分なことは語られていると思うが、たとえばレモの恋人なりなんらかを登場させて、彼氏と「死別」した彼女、そっちの視点から誕生エピソードをふくらませるとかの手とかもあったよな、とかも考えたりした。そういう意味じゃ、やっぱり簡素だよね。 (ちなみに「デストロイヤー」って、確かに本作の原題のメインワードなんだけど、実際の本文じゃほとんど~ちっとも登場しないのね。コードネームでもなんでもない。「殺人機械」という修辞の方は少しは出たような気もする。) じゃあどこに小説本文の紙幅が費やされたかというと、謎の巨悪マクスウェルに繋がる暗黒街の大物ノーマン・フェルトンについてであって。このフェルトンがしばらくは、今回のミッションに介入したレモが追いかけていく標的になるのだが、良くも悪くもけっこう丁寧に、その過去像までが描写される。 これだったら改めて、せっかくの誕生編なんだからレモの方をしっかり書き込んでくれよと思ったりしたが、意地悪い見方をすれば、今後のシリーズの展開を考えて、あとあとアレンジのしやすいプロットの雛形を最初から設けたのかもしれない。要は毎回、悪役の部分の叙述を差し替えれば、パターンでお話が作れるから。 そんなことを考えながら読んでいたので、中盤はやや退屈。とはいえ主人公レモが、やさぐれた自分の現状をなかば自嘲し、なかばウンザリしながらミッションに向かいあい、そのなかで貧乏なスポーツ少年相手にやさしさを見せるあたりとか、うん、悪くないな、というシーンなども登場。 さらに後半のストーリーのキーパーソンとなる、フェルトンの娘シンシア(シンシー)を利用してレモが標的に接近しようとするあたりになると、なかなか面白くなってくる。 ……いや、まっとうな主人公ヒーローとしては、女心を作戦に利用しようというのはかなりゲスい行為なんだけど、今でいう喪女JDヒロイン(笑)のシンシアの方がハンサムな青年の接近にうかれまくるので、なんかあんまり不愉快さは感じない。最後のまとめかたも含めて、個人的にはその辺はよくできた通俗エンターテインメントではないかと(それでも怒る人もいるかもしれんが)。 敵陣にのりこんだレモとフェルトン側の腹の探り合い、さらには謎の黒幕マクスウェルの意外な正体もふくめて、後半はそれなりに読ませる。ラストはさっきホメた一方で、なんだかな、という感じもしないでもないが、まあこれはシリーズ2冊目ではたぶんきっと……(中略)。 得点部分だけ拾えば、まあまあ悪くないね。レモの殺人テクニックそのものはほぼ無敵なんだけど、随所にピンチを設ける流れはちゃんと配慮してあるし。 評価は0.5点くらいオマケ。とりあえず、すでに購入してある分のシリーズ続刊は、そのうちまた読んでみよう。 |