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ミステリの祭典

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世界名作探偵小説選
ポー、オルツィ、サックス・ローマの諸作の児童向けリライト

作家 山中峯太郎
出版日2019年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 みりん
(2024/11/06 04:18登録)
『モルグ街の殺人』『黒猫』『盗まれた手紙』の復習が完了したので、ようやく人並由真さんにおすすめ頂いた本作を読みました(^^) 山中峯太郎という作家は本サイトにも2件の書評(どちらも人並さん)がありますが、ホームズシリーズを児童向けに翻案した『名探偵ホームズ全集』で人気を博していたそうです。原作と比較したい方は『告げ口心臓』『お前が犯人だ』も読んでおくべし。

いやあ、原作と違ってキャラクターが活発なジュブナイルは楽しいねぇ。小学生の時に読んだらモルグ街の衝撃にぶっとばされ、盗まれた秘密書で「なわけねえだろw」とか笑ってただろうな。

『モルグ街の怪声』
語り手と被害者が旧友であること、殺し方のマイルドさ、女記者の存在、釘と窓の話(これ原作より非常に分かりやすい!)などなど細かな変更点に加えて、なんと真犯人が変わっています。子供に馴染み深いように変更したのではないかと注釈には書いてありますが、高いキンキン声を出すイメージがあまりないなあ(笑)
意外な犯人像に忘れがちですが、原作の『モルグ街の殺人』は、分析力が独創性を包含する(分析力⊃独創性)の関係を示すために用いられた話です。そういった話を児童にしても仕方がないと思ったのか、この辺はカットですし、デュパンのプロファイリング描写もほぼなしです。そのかわりに<友だちとバナナ>の話が加えられており、これは「観察するだけではその人のことはほとんど何も分からない」という著者なりのデュパンに対する抗議でしょうかね。

『盗まれた秘密書』
元々は非常に短い分量であるためか、かなり魔改造されています。原作では手紙の隠し場所以外に謎はないのですが、山中版ではスパイは誰なのかという謎も追加。これにより、原作の「いやいや警察ならいくらなんでも気づくでしょう問題」や「犯人が分かってるのなら襲撃すればよくね問題」がある程度解消されています。他にも犯人の盗みの手口を明確に示すことで、後に効果的な使い方もされており、これは原作のリライトとしてかなり優秀だと思います。

『黒猫』 
原作のゴシックホラーと呼ぶに相応しいラストが好きですが、本作は児童向けなので配慮されています。また、原作の方の妻は寡黙で優しくおしとやかな女性のイメージですが、本作の妻は黒猫に完全に取り憑かれており、語り手が狂っていく過程が丁寧に描写されています。というか原作の語り手は救いようのないクズなんですよね。その点、情状酌量の余地があって感情移入のできる『黒猫』はなんだか新鮮でした。原作にはいないデュパンの分析も見所です。ちなみになぜか『お前こそが犯人だ』も乗っています。現代基準では苦しいと感じたであろう所が色々改訂されてます。

このポーリライト企画は全5巻の予定だったそうですが、『マリー・ロジェの謎』と『黄金虫』は刊行されず3巻で終わっています。惜しい。

※バロネス・オルツィとサックス・ローマーの方は原作を読んでから感想を追記しようと思っているので、点数は暫定ですm(_ _)m

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