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ミステリの祭典

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水は静かに打ち寄せる

作家 メアリ・インゲイト
出版日1979年02月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2021/11/21 10:10登録)
例の「女子ミステリ―マストリード100」でも、「女子ミステリ―」の魅力は

ミステリーの出来不出来と同じくらい、あるいは時としてそれ以上に、その周辺描写を重視します。(略)ロールモデルなるようなヒロインや、女性心理の描写が卓越しているもの、日常描写が魅力的なものがたくさんあります

とね。いやそういう視点だと、インゲイトのこの2作、「女子ミステリ―」として満点クラスの傑作だと思うよ。前作「堰の水音」のヒロイン、アンは年上の考古学者バーナードと結ばれて、「堰の水音」で因縁のミルハウスを売って、バーナードの仕事の発掘のためギリシャに定住する....実際、「堰の水音」のプロローグは本作の予告だから、内容は完全に繋がっている。「堰の水音」からなるべく順番に間をあまりおかずにニコイチで読むのがいいと思う。

ギリシャでの歳の差夫婦の生活デテール、とくにギリシャで買った家でアンが生活を楽しむ描写がなかなかいい。男勝りの友人ミリーと親しくするが、子供がないのをミリーは嘆く。その夫でバーナードの同僚の学者エドワードが、アンの使用人の青年ディミトリオスに秘密に大金を渡すのをアンは目撃する。ディミトリオスは、エドワードのメイドのユーレイリアと結婚するのだが、生まれた子供は、エドワードの「眼」を持っていた....ユーレイリアは断崖から墜落して死んでいるのが発見された。高齢のバーナードも亡くなるが、アンは妻を喪ったディミトリオスと突然、再婚する....

このディミトリオスがなかなか野心的な青年で、もともと家政婦としてアンの家に入り込んだ母のマリアと共に、結婚したアンを食い物にしていくさまなど、それこそクリスティだと「終わりなき夜に生れつく」とかアイルズの「犯行以前」みたいなテイストが強くある。評者こーゆーの大好き。クレッシングの「料理人」とかロージーの「召使」とか、ややマゾヒスティックな「被害者心理」も漂わせる。
でもちろん、ちゃんと逆転は仕込んである。しかも読みようによっては「信用できない語り手」かしら? やんわりと匂わせている穿った読みの方が、「堰の水音」にきっちり繋がっているから、作者の構想なんだと思う....

なかなか芸細な作品。ナイスでしかも好み。「堰の水音」からつながって、一人の女性のサスペンスフルな人生を描きとおすような大河ドラマ風の面白さも出る。「堰の水音」よりも、全体的にさらにグレードアップしている。おすすめ。

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