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ミステリの祭典

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くノ一忍法勝負
忍法帖

作家 山田風太郎
出版日1969年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2021/06/07 21:03登録)
 昭和42(1967)年11月から昭和43(1968)年7月まで、雑誌「オール読物」ほか各誌に掲載された短篇を収めた、忍法帖後期の作品集。年代順に並べると 倒の忍法帖(忍法倒蓮華)/妻の忍法帖(奥様は忍者)/叛の忍法帖(忍びの死環)/呂の忍法帖/淫の忍法帖/蟲の忍法帖(忍法虫) となり、長篇では『笑い陰陽師』の終盤や、『銀河忍法帖』『秘戯書争奪』などと被る。翌昭和44(1969)年には最後の忍法長篇となる『忍法創世記』が刊行されている事から、そろそろアイデアを捻り出すのも苦しくなってきた頃の作品と思われる。それ故か切れ味はやや鈍い反面、苦し紛れの発想から出た山風短篇中一、二を争う怪作「呂の忍法帖」も含まれている。
 忍法短篇はこれ以降も書き継がれるがそれも約四年後の昭和47(1972)年11月まで。「オール読物」掲載の「伊賀の聴恋器」を最後に打ち止めとなり、著者五十歳を機に幕末ものや明治ものにシフトしていく。
 お家断絶の習いを避ける為、江戸家老に御世子作りのたねつけ代行を命ぜられた五人の若侍。お役目以後十ヵ月の禁欲の誓いを守らせる代償として、かれらに許嫁のお志摩を輪姦させる羽目に陥った忍者・からすき直八。彼の壮絶な復讐とその皮肉な成り行きを描く「淫の~」はまあマトモだが、歴史物でも捨て童子・松平忠輝を題材にした「倒の~」になるともうよく分からない。殺生関白・秀次の忍法に賭ける淀君への飽くなき執念「蟲の~」も似たようなモノ。発表順だと逆になるがこの甲賀相伝「虫壺の術」によるループの概念は、「叛の~」における羽柴・徳川・明智・毛利の怪奇な四忍者輪舞を経て、一気に問題作「呂の忍法帖」へとなだれ込む。
 これが実に悪ふざけとも何とも言いようのない怪篇で(オチは確実にそう)、怪僧・赤法華輪天の唱える「輪の哲学」なるものに従い、七人の愛妾と六人の小姓たち、それに痴呆の兄君・大膳どのを用いた藩主・波切志摩守改造のための肉輪構造式に、波切藩忍び組のカップルが巻き込まれる話。いちいち図面が入るのが凄い。2010年公開のホラームービー『ムカデ人間』と言えば分かるだろうか。映画の方はまさか風太郎オマージュでもなかろうが、まあとんでもない小説である。
 これもよく分からないながらに怖い「妻の~」を入れて全六本。統一タイトルなのに角川文庫版では『くノ一紅騎兵』『忍法女郎屋戦争』『忍法流水抄』『伊賀の聴恋器』『忍法陽炎抄』『忍法行雲抄』と、態々全篇バラしてある所にそのヤバ加減が窺える。あまりお薦め出来る短篇集ではないが、ゲテモノ好きの方はどうぞ。

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