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ミステリの祭典

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われらの時代・男だけの世界
新潮文庫ヘミングウェイ全短編1

作家 アーネスト・ヘミングウェイ
出版日1995年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2021/05/28 09:21登録)
ハードボイルド、というとこの作家外せないです。「男だけの世界」に収録の「殺し屋」はとくに、ミステリ系アンソロへの収録でも定番ですからね....
短編集でも最初に2冊の合本が新潮文庫で。訳者はおなじみ高見浩。内容的には第一次大戦のイタリア・戦後混乱期のパリ・故郷・スペインなどを舞台にした、スケッチ的作品が多くて、ストーリー性は強くない。というか、ちょっとしたスケッチの中に「ストーリーを暗示させる」氷山理論の実験みたいな色彩もある。
それでもヘミングウェイらしい闘争の話は、そこそこの長さ・ストーリーを備えて読み応え短編になる。闘牛士の話の「敗れざる者」、ボクサーの「五万ドル」など、作家まだ若いのに、引退寸前のロートルを主人公に据えて、その「最後の戦い」を描くような趣向が最初から出ているのが面白い(「老人と海」だよ)。
改めて考えるべきなのは、やはりハメットとの関係性なのだと思う。同じ戦争を体験していても、ハメットは結局アメリカからは出ないし、ヘミングウェイは赤十字に加わってイタリアで重傷、一旦アメリカに戻るがすぐにヨーロッパに特派員で...と両雄なかなかカブらない経歴なのが面白い。ヘミングウェイの方はこのヨーロッパ特派員時代に、パリで活躍するアメリカ人の前衛作家たちと交流して、その中で「ハードボイルド文体」を練り上げるわけだが、実際ハメットが「ブラックマスク」に執筆して人気を博す方のが、やや先行していると見た方がいいだろう。そうするとまあ、「時代精神を共有」した結果としての「ハードボイルド」ということになるのかもしれない。
で、面白いと思うことは、「man without women」が高見訳では「男だけの世界」なのだが、高村勝治訳だと「女のいない男たち」になる。で、村上春樹がこの「女のいない男たち」のタイトルを借りて...
いやなかなかハードボイルド論として、「女のいない男たち」というのはキーワードになるように思うんだ。ハードボイルドとは「女のいない男たち」のフシアワセを描く小説だから、主人公の探偵を翻弄する女が犯人なのが定番になる。犯人の女はハードボイルド探偵が追及する標的ではあっても、犯人なのだから絶対に探偵のモノにはならないわけだ。
そう考えると、なかなかにヘミングウェイとハードボイルド探偵の関係、面白いんじゃないかな。

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