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ミステリの祭典

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幻の島

作家 笹沢左保
出版日1967年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/05/26 18:14登録)
(ネタバレなし)
 昭和39年。東京の遥か南方の孤島、瓜島。そこで島の若い恋人たちが惨殺されるという事件が起きた。さらに東京の本庁からベテラン刑事が捜査に向かうが、その刑事もまた射殺死体で見つかる。瓜島は交通事情がよくない島で、逆に言えば余人の目を盗んで島を出たり入ったりするのはかなり困難であった。3人を殺した真犯人はまだ島にいる? と考えた警視庁は、厳密な人選の上で神奈川県警の35歳の警部補・保瀬敏(ほせ びん)を秘密捜査官として瓜島に派遣するが。

 1965年の書き下ろし長編。
 広義の密室空間といえる孤島を舞台に起きた殺人事件だが、実際の物語の興味は、いったいどういう事件が起きて(ホワットダニット)、それがどういう動機で殺人に結びついたのが(ホワイダニット)が主眼となる。もちろん真犯人は終盤まで明かされないので、フーダニットともいえるが、まあちょっと純粋な犯人当てとは言い難い面も……(あまり詳しくは言えないが)。

 古参刑事を出張先で殺されて、メンツがかかった警視庁の思惑で瓜島に派遣される秘密刑事・保瀬が本作の主役だが、彼は設定の面でも描写の面でもかなりクセのあるキャラクターとして造形されている。神奈川県警の上司などに「感情がない」と評されながら、一方で表向きは捜査や表層の人間関係を円滑にするために自分を演出できるしたたかさもある。
 途中で島で出会った某登場人物に告げる酷薄な物言いなども含めて、まさに笹沢流のハードボイルド探偵(刑事)であり、この作品はミステリ要素にくわえて、そういったこわもてな感覚も賞味部分となっている。
 資源もそうない、しかし歴史だけはある、貧しい島の将来を巡る開発の行方もまた本作のテーマで、保守派と革新派の対立などもしっかり語られるが、それがミステリのなかでどのように機能するかはとりあえずは内緒。まあうまく和えてある、とは思う。

 惜しいのは終盤の謎解きが、ほとんど保瀬の仮説の組み立てと、それをあとから親切に補強するような犯人側の行動で済まされてしまうこと。なんか言いたいことだけ言って説明してしまうとする、主人公と作者双方の力技にはぐらかされたような気がする。
 
 最後の2行は、本当はもうちょっとさらにキャラを立てたかった保瀬について、作者が食い下がった感じ。マジメというか不器用というか、個人的には、ちょっと微笑ましく思えた。

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