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ミステリの祭典

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チェ・ゲバラ伝

作家 三好徹
出版日1998年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2021/05/23 13:07登録)
ミステリライターの出身というと、昭和には社会派の流行もあってか、新聞記者上がり、という人も多かった。三好徹氏は今年亡くなられたわけだが、佐野洋やトップ屋で名を馳せた梶山季之と並んで、「らしい」作家と言えるんではなかろうか。
「おれは、さほど小説は上手いとは思わないが、新聞記者としては東京で五本の指に入る」と豪語したそうである。ミステリ・スパイ小説をたくさん書いた作家ではあるが、ジャーナリストの伝記やら歴史小説やら、作品は多彩である。ミステリ以外でよく売れた代表作、というとおそらく本書ではなかろうか。
言うまでもなく、キューバ革命をカストロと共に指導して、革命が成ったあとにもその地位を振り捨てて、新しい戦場としてボリビアに潜入し、ついには殺害された、エルネスト・チェ・ゲバラの伝記である。
いや、意外に小説仕立てではない。実際に作者は南米に取材旅行に訪れて、関係者の話を聞いて回って、ゲバラの実像を浮かび上がらせようというタイプのルポルタージュの印象が強い。が「伝」と銘打つわけで、時系列に沿ってゲバラの人生と特異なキャラクターを浮かび上がらせていく。
澄んだ目をした滅私のロマンティスト、というのが三好氏の捉え方である。本書が出た頃というと、学生運動はまだ華やかな時代であり、ゲバラのロマンティシズムに酔う読者も多かったわけだが、なんやかんや言って、ゲバラはカッコイイ。それ以降もゲバラ・ブームは何度も来ては去り、ラウル・カストロ引退でキューバ革命関係者がすべて退いた今でも、何がしかゲバラの生き方が訴えるものがある。
なので、とくにミステリ、という本でもないのだが、三好徹の「ジャーナリスト魂」がよく発揮された作品であることには違いない。革命後に日本をキューバの通商代表として訪問した件に、かなりのスペースを割いているのが面白いあたりである。会談した池田隼人の冷淡さとかなるほど。作者のあとがきによると、本書は「不十分ながら世界で最初のものであろうと信じている」そうだ。まあ当時から「ゲバラ日記」など本人の著作は結構出てたようではあるが。

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