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ミステリの祭典

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凶悪
名無しの探偵

作家 ビル・プロンジーニ
出版日2000年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/05/22 16:53登録)
(ネタバレなし)
 1990年代半ばのサン・フランシスコ。60歳代を目前に控えた私立探偵の「わたし」は長年の恋人ケリーとついに結婚。仕事もまあ順調で、さすがに時代に合わせて、パソコンの扱いに長けた若い助手の雇用を考えていた。それと前後して、23歳の娘メアリー・アン・オルドリッチが、死別した両親が実は養父母だとわかったので、本当の親を探してほしいと依頼にきた。場合によっては、メアリー当人のことを考えて、あまりつらい情報は秘匿したいと思いながら「わたし」は調査を進めるが。

 1995年のアメリカ作品。「名無しの探偵」オプ・シリーズの第23弾。
 Wikipediaを見ると2011年までに40冊近い冊数を重ねた「名無しの探偵」オプ・シリーズだが、日本では中盤から翻訳刊行がそぞろになる。この作品『凶悪』は、初めて講談社から、当時10年ぶりにシリーズが翻訳された。
 ちなみにこの前のシリーズの第18~22弾はまだ未訳。本書のあとに2つとばしてシリーズ第26弾の『幻影』がやはり講談社文庫から出ている。現状ではシリーズの紹介はそれで打ち止め。

 本作も、謎解きの興味はほとんどない私立探偵の捜査小説。評者はもともとこのシリーズはミステリとしてはそんなに買ってないし、メンタル的な意味での「ハードボイルド」としては失笑ものなのだが、等身大の青臭い中年男オプのキャラにそれなりの魅力は感じるので、タマに読みたくなる。
 というわけで、これは数か月前にブックオフの100円棚で購入した一冊。訳者の木村二郎さんの解説を読むと、もはやシリーズ紹介の順番もバラバラみたい。ということで、探偵の事件簿の流れも気にしないで気楽に読んだ。

 物語の方向がどういう方向に行くかは、いろんな意味で早期からバレバレ。ただし小説としてはこのシリーズの70~80年代の諸作より、さすがに練度を高めた感じがあり、サクサク読める(まあもともとこのシリーズは翻訳家に恵まれたこともあり、よかれあしかれ、リーダビリティは高かったが)。

 とはいえなんか手放しで褒められないのは、シンプルさに居直ったような作劇はスペンサーものを、人間の病巣めいたものへの接近はスカダーものを、それぞれ横目にそれを取り込んだような、当時の人気同時代作家たちの真似事で作品を仕上げたっぽい、作者の頼りなさを感じるからで。
 さらに犯人というか悪役の文芸設定も、ある種のリアリティを感じるというか、それとも、いや、これってまずありえないだろ、と思うか、その紙一重。
 終盤のテンションの高さはなかなかいいんだけれど、これもどっかで見たような読んだような、なんだよな。

 単純に一冊の読み物ミステリとして賞味するなら、それなり。
 もちろんこれまで評者が読んできたオプ・シリーズのなかでは、上位の方です。

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