夢遊病者と消えた霊能者の奇妙な事件 探偵ジェスパーソン&レーン |
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作家 | リサ・タトル |
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出版日 | 2021年03月 |
平均点 | 4.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 4点 | 雪 | |
(2021/06/03 12:43登録) 一八九三年六月の終わり、英国心霊現象研究協会(SPR)の雇われ助手アフロディーテ(ダイ)・レーンは、調査員を務める友人ガブリエル・フォックスの不正を機に職を捨て、着の身着のまま故郷ロンドンへと逃亡する。疲労困憊した彼女の目に止まったのは「求む、探偵諮問の助手」の貼り紙。それに惹かれ訪れた先で迎えたのは、少年のような風貌だが博識のジャスパー・ジェスパーソンと、家政に長けた上品な母親のイーディスだった。ミス・レーンはガウアー街の三食賄い付き住み込み助手として、ジャスパーに助力することとなる。 二人は共同経営者としていくつかの不可解な事件を解決するが、報酬には繋がらない。そのうち、とうとう生活費が底を尽き始めた。手段に窮したジャスパーは機智を発揮し、家主のヘンリー・シムズから妹夫婦の問題ごと解決を請け負う事に成功する。引っ越し会社の経営者である彼の義弟アーサー・クリーヴィーには生活上の心配は無かったが、ある日突然起こった原因不明の夢遊病に悩まされていたのだ。 一旦軌道に乗れば仕事はひっきりなしに訪れる。今度はミス・レーンの働きかけを聞きつけたガブリエルが、一ヵ月のうちに四人もの霊能者が失踪した怪事件をガウアー街に持ち込んできた。着々と調査を進展させるうち、やがて二つの事件に奇妙な関連を見出すジャスパーだったが・・・ 2016年発表。リサ・タトルと言えば、ヘンな小説が昔のSFマガジンにポツポツ載っていた記憶がある。1960年代後半から1970年代にかけてアメリカSF界に現れたフェミニズム作家の一人だが、評者の脳内では「お待ち」(中村融編の創元推理文庫アンソロジー『夜の夢見の川』ほかに収録のベスト級〈奇妙な味〉短編)のキット・リード、1991年度世界幻想文学大賞『すべての終わりの始まり』のキャロル・エムシュウィラーらと共に、SFギリギリの境界線ばかりを書く三人娘に括られている。この人がネビュラ賞受賞を蹴った作品 "The Bone Flute"(「骨のフルート」) は、いつか翻訳して貰いたい。クリストファー・プリーストの元嫁さんで、今では米SF界隈の重鎮らしい。 そんな訳で結構期待して読んだのだが、内容的には思ったのと違い、生き生きしたキャラクターで読ませるシャーロック・ホームズ風ライトノベル。フェミニストらしく男女のイーブンな関係に気を使った、心霊主義バックのスーパーナチュラルものであった。文章もキャラクターも軽快で好感は持てるが、軽めのシリーズ作品として読んだ方がいい。作者もそのつもりらしく、ラストでは次作 "The Curious Affair of the Witch at Wayside Cross"(『十字路の魔女』)の発端部分に繋げている。 |