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ミステリの祭典

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魔軍跳梁 赤江瀑アラベスク 2
創元推理文庫全三巻アンソロジー

作家 赤江瀑
出版日2021年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2021/05/09 22:41登録)
創元推理文庫、東雅夫選のアンソロ2巻目である。キーワードは「魔」であり、幻想小説としての味わい、という特性で選んだ、ということである。
確かに同じ編者の学研M文庫「幻妖の匣 赤江瀑名作選」とはカブるのだが、一般に「赤江瀑の名作」とする初期中心のアンソロとは一線を画している。で..評者としては、う~ん?という印象。いやね、考えてみると、どうやら評者は赤江瀑を恐怖小説として読んでいたようにも感じるんだ。

一番わかりやすいのは「春喪祭」だろう。これ怖くないんだよね...牡丹の花の盛りに長谷寺の回廊をさまよう「若いお坊さん達の煩悩が、長い間に宙にまよって、生身をはなれてつくった影」は、魅入られると死ぬ「此の世のモノではないモノ」なのだけど、考えると「ヘン?」となるくらいに舞台背景には馴染んだ顕現をしているにすぎない。怖い、というほどのものでもない..
初期の短編だと、これでもか!というくらいにウンチクを重ねに重ね、張り詰めて陶酔的な美文で綴られた作品だったのだが、この巻に収録の作品はそういう面はあまり表に出ない。饒舌に京ことばで語る語り口の作品が多いから、はんなり、というよりも京都人のイケズな感じがよく出ててそれは面白いのだが、赤江瀑らしい美文、というのとは違う。

あんたたちも、いるならいなさい。でも、見損なわないでちょうだい。わたしにしたって、ここは、人には明け渡せない場所なんだ。いのちを張っている生き場所よ。泣きの涙で、尻尾を巻いて。逃げ出すような玉じゃないから、そのつもりでいてちょうだい

と幽霊ビルでスナックを営むママが、こう怪異に啖呵を切る(「階段下の暗がり」)ような、そういう「語りの勢い」みたいなものの面白さになっているのだと思う。そういう意味だと、赤江瀑も「人間らしく」なったのかも。
で、さらに、晩年の作品が多い、ということもあってか、夭折の美ではなくて、老残の身の上を扱った内容が増えている印象がある。あっさりと「向こう側」に姿を消す潔さではなくて、この世に執着して爪痕を残しておきたいと見苦しくも妄動するさまを描くのが、作品の主題になっている印象も強い。そういうあたりでも、かつての非人間的な鋭さではなくて、より人間臭い興味を中心とするように変化してきた...とは言えるのだろう。

饒舌な語り口で陰子二人の霊に憑りつかれる女性の話「花曝れ首」、叙述に仕掛けがあってミステリ調の「悪魔好き」、小泉八雲の短編がオミットした性の問題を中心に「茶わんの中」を語り直した「八雲が殺した」といったあたりの、中期作品の充実感はやはり捨てがたい。後期はどうだろう、やはり語り口があっさり終わる感があってもどかしいが、それでも「緑青忌」や「隠れ川」が佳作だと思う。

最終3巻は「耽美伝奇系名作集」だそうである。光文社とはまったく別なセレクションだと、評者は面白いけど...営業面を考慮するとどうなるのかしら?

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