ウォルドー |
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作家 | レイン・カウフマン |
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出版日 | 1964年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/05/08 14:55登録) (ネタバレなし) ニューヨークから少し離れた避暑地セント・オールバンズ。当地の富豪の女性リズ・エリオットが開催した上流階級の人々が集うパーティで、女好きと噂される中年の写真家フィリップ・ウェアリングが何者かに殺害される。二代目社長で28歳のトム・モーリイは、2つ年上の美人妻ヘイゼルとともに宴に参加していたが、トムとなじみの初老の警察官ジェンセンは状況を絞り込んだ末にヘイゼルを殺人の容疑者として逮捕。そしてヘイゼルはその嫌疑を認める一方、何も事情を語らなかった。だがリズの兄である71歳の元弁護士で犯罪研究家の「ウォルドー」ことオズワルド・エリオットは、自分の人間観からヘイゼルの無罪を確信。リズの娘アイリス・シェフィールドを助手格に事件の洗い直しにかかる。 1960年のアメリカ作品。 処女長編『完全主義者』でMWA新人賞を取った作者カウフマンの第4長編。ただし作者はミステリ専門作家ではないので、ミステリとしてはこれが2冊目になる。 バウチャーに同年度の収穫のひとつとして賞賛された作品で、あらすじの通りに普通のフーダニットパズラーっぽい長編だが、作者の狙いはちょっと斜めの方向。 眼目は当時の上流階級の社交場に集った人間模様の活写と、そしてさる事情からアマチュア探偵として積極的になる老主人公ウォルドーの行動の軌跡を介して、謎解き作品の様式やミステリ全般の「あるある」的なお約束を風刺すること。 さらにヘイゼルの冤罪? を晴らしたい一方で、嫌疑を認めた妻の心情が理解できないトム、そんな夫婦の距離感や、ほかの多数の登場人物の素描を通じて、男女間のセックスや情痴の主題にも踏み込んでいく。 (ただし濡れ場などの扇情的なシーンは皆無で、全体的にドライでカラッとした仕上げ。) そういうわけなので、早川書房の「ハヤカワ・ミステリ総解説目録 1953年―1998年」でもジャンル分類は「本格」ではなく「異色」である。うん、さもありなん。 それでも「結局、本当の犯人は誰か」という興味は終盤までひっぱるし、小説としてのまとめかたも作者の思惑におさまった感慨は存分にある(ウォルドーがもうちょっと、警察の捜査陣と積極的に関わってもいいのでは? とも思ったが)。 とはいえ60年以上前の作品なので、ミステリジャンル、謎解き作品へのサタイアやエスプリの部分は、今読んでもそのままクスリと笑えるところもあれば、どっか、あちこちで見てきたようなツッコミの類などもあったりする。この辺は仕方がない。 評者としてはそれなりに楽しめた箇所が、「ああ、ここでニヤリとさせようとしているんだな」と冷えた頭で感じる箇所をやや上回ったというところ。 猥雑な物語や人間関係の説明を、全体的に乾いたハイセンスな叙述で語ってゆく小説の作りはけっこう好み。 その意味で最後のミステリ小説としてのオチもきまっている。 評点は7点に近いこの点数で。 |