早すぎた救難信号 |
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作家 | ブライアン・キャリスン |
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出版日 | 1986年02月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | tider-tiger | |
(2021/05/05 14:50登録) ~アルジェリア沖でトルコの貨物船から座礁したと救難信号が発せられた。海難救助船タクティシャン号の船長ロスはそれを受けて現場に向かった。そこでロスが見たのは、すでに座礁しているはずの貨物船がまさに座礁する瞬間だった。 『な、何を言っているのかよくわからねえと思うが』~ 1973年英国。キャリスンの初期作品。 海洋冒険小説はそれほど読みつけていないので用語に馴染みがなく、船のどの部分で何が起きているのかすら把握しきれないことがままある。だが、「いまから座礁します」という人を食った発端から、いざ救助に駆けつけてみれば怪しげな乗組員たち、不可解な事故、挙句に殺人事件と吸引力あってなかなか面白い。 ミステリと海洋冒険小説の融合で、事件の大きな構図、真相は今となっては陳腐だが、キャラの裏の顔が読みづらくてwhoの部分は悪くなかった。ミステリとしてもまあまあ楽しめる。人物造型も悪くない。 法廷小説と海洋冒険小説を融合といった趣のハモンド・イネス『メリー・ディア号の遭難』をいくつかの点で踏襲しているのではないかと思わせる。『メリー・ディア号の遭難』の方が構成、文章、展開など洗練されており完成度は高いのだが、意外性やエンタメ指数は本作の方が上だと思う。 『メリー・ディア号の遭難』にはある種の品格、英国人の美意識といったものまで感じるのだが、本作にそうした部分はあまりない。 だが、いい意味での品のなさ、迫力がある。ケインとチャンドラーの違いとでもいえばいいのか。どのように説明したらいいのか考えあぐねていたが、雪さんのキャリスン作品の御書評から引用させていただくと『生々しくざらざらした記述』である。思わず声を上げてしまいそうになった描写が二つ、三つとあった。 作者に責任はないのだが、大きな難点は邦題か。タイトルからすると「救難信号が出されたタイミングが早すぎた」ことが大きな意味を持つように思えるし、謎としても魅力的である。ここが肩透かしだったのは残念。原題は『A Web of Salvage』なわけでありまして、邦題はより吸引力あるものの、ややピントがずれているというか、ずるい。 採点は6点か7点かで迷ったが7点ということで。 |