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ミステリの祭典

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赤毛のカーロッタ奮闘する
私立探偵カーロッタ・カーライル

作家 リンダ・バーンズ
出版日1988年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2021/05/01 15:17登録)
(ネタバレなし)
 その年の9月末のボストン。「わたし」こと元警官の私立探偵で赤毛の30女カーロッタ・カーライルは、愛猫「トマス・C」の名前を存在しない人間の夫のように見せかけて応募した懸賞で、2万ドルが当たったらしい。夫婦で賞金を受け取りに来ないと、当選は無効のようだ。さてどうしようと思っているさなか、オールドミスのマーガレット・デヴンズが、3週間ほど姿が見えない弟ユージーン・ポール・マーク・デヴンズの行方を捜してほしいと依頼に来た。老嬢が、彼女に似合わない多額の現金を持っていたことへの疑念、そしてユージーンの勤務先が以前のカーロッタのバイト先「グリーン&ホワイト・タクシー」だったこと、そして何より猫のエサ代を稼がねばならない事情もあって、カーロッタはユージーンの捜索に本腰を入れるが。

 1987年のアメリカ作品。
 日本でもあと2冊シリーズの翻訳がでている、赤毛の女私立探偵カーロッタ・カーライルシリーズの第一弾。
 訳者あとがき(中盤~後半のネタバレをしてるので、注意)によると、この処女作の時点でMWA長編賞(新人賞でなく本賞)にノミネートされたそうであり、さらにパレッキーとグラフトンという現代の二大女私立探偵ものの先輩も激賞、くわえて、同じシカゴがフランチャイズのR・B・パーカーやグレゴリー・マクドナルド(フレッチの)たちからも、高評を授かったらしい。
 実際、話のテンポ、文章のユーモラスさと全体に過不足を感じさせない描写、そしてカーロッタが出会う(再会する)タクシー会社の面々や警察関係者、元カレ、さらにカーロッタが親代わり&姉代わりに後見する10歳の少女パオリーナなど、それぞれのキャラクターの造形や描写もソツがない。
 作品の結構は、ユージーン捜索の案件からやがて深奥の犯罪が露見してゆく流れがメインで、そこに複数のサブプロットが並行して進み……という組み立て。

 登場人物はそれなりに多い(猫やインコを含めてのべ50名以上)がキャラクター描写がくっきりしているので、読んでいて話にほとんど混乱はない。
(なお邦訳の角川文庫の巻頭には登場人物一覧がないが、たぶん複数のプロットの関連キャラをまとめにくかったのかな? とも思う。)

 私立探偵小説のなかには比較的パズラーっぽいフーダニットの形質を採るものも多いが、本作はどちらかといえば足で歩いて聞き込んで周囲の人間を刺激して、真相が暴かれていく流れ。
 ただし、なかなか表面に出てこない真犯人の文芸設定とそ当人の犯行の動機はかなり面白く、そういうリアリティもあるかな、という感じ。

 しっかり(メンタル的、スピリット的な意味合いで)ハードボイルドしている事態の決着の付け方もふくめて、かなりの秀作。中盤は7点くらいの評点の作品かな、と思ったが普通に8点でいいでしょう。

 しかし1年前くらいに近所のブックオフで110円で買った本だが、Amazonでは現状、かなりのプレミアがついていて笑った。
(通常価格のkindleの電子書籍版もあるのだが、実はこちらはちょっと見にはわからないが、原書の英語版なのであらかじめご注意を。)
 続刊は早川に版元が変わるようだが、そのうち機会を見つけて読んでみよう。本書も角川文庫が品切れか絶版になった時点で、早川から出しなおすとかできなかったのだろうか。

【2012年12月28日追記】
 自分の上のレビュー本文で、本作が処女作のように書いたが、本日空さんが投稿された本シリーズの第二作『コンバット・ゾーンの娘』のレビューで、バーンズには本作以前の別シリーズの著作があると説明されている。ということで本作が処女作うんぬんは当方の勘違い(汗)。空さんに感謝して、訂正してお詫びします。
【2012年12月29日追記】
 本文を若干、改訂しました。

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