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ミステリの祭典

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幽霊潜水艦

作家 ジェフリイ・ジェンキンズ
出版日1978年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/04/30 05:40登録)
(ネタバレなし)
 昭和11年の東京。二・二六事件のさなか、一人の男性が国外に逃亡する。その事実はリヒャルト・ゾルゲによってソ連情報部に伝えられたが、やがてくだんの記録は歴史の闇の中に消えた。それから時は流れて、1970年代前半の南アフリカ。「私」こと、少し前まで英国領・南アフリカ海軍の駆逐艦艦長だったストゥルアン・ウエデルは、座標した大型タンカーの原油流出から海洋と生態系を守るため、莫大な原油資産を積むタンカーを撃沈。だがそのあとのゴタゴタに嫌気がさして退役し、今は無頼の日々を送っていた。だが南アフリカ海軍の秘密施設「シルバーマイン」から半ば強引な召集があり、ウエデルは復隊。彼は、南西アフリカの洋上にある英国領の孤島ポゼッション島を管理する「島長」の任を託される。同島には最近、発見された古代遺跡があるらしく、民間学者の調査を後見せよという指示だった。これに応じるウエデルだが、現地では想像もつかない事態が待っていた。

 1974年の英国作品。
 作者ジェンキンズ十八番のアフリカ海域ものの冒険小説だが、冒頭はいきなり二・二六事件の叙述から開幕。なんじゃこりゃ、と思っていると、プロローグは今度は、第二次大戦中のUボートの航海記録を断片的に語り、やがて主人公ウエデルの現在時勢の一人称での本筋ストーリーになだれ込む。
 
 いわくありげなヒロインが登場し、さらに頭数は多くない主要キャラの立ち位置がそれぞれ見えてくるが、いまだ物語の全貌は見えない。悪役キャラっぽいのも出てきて、黙って読み進めると……。

 ぶわはははははは(笑)。
 物語の終盤まで秘匿されていたヒミツって、これか!!
 
 いや、ジェンキンズって『砂の渦』と『ハンター・キラー』、それからなんかあと1~2冊しか読んでないハズだけど、こういう(中略)なモノを書くとは露程も思っていなかったので。
 いやー、これ一冊で、ずいぶんと見る目が変わりました。

 なんつーか、途中入社でそのままいきなり上司になった職場のカタブツが、実は意外に砕けた敷居の低い、羽目をはずせるヒトだとわかって嬉しくなり、思わず肩を叩いてしまうというか、そんな感じです(笑)。
 案外、話せるやんけ、オッチャン。バンバンバン。

 というか一言でいうならコレ、海洋冒険小説版『日本核武装計画』(エドウィン・コーリィ)だよ。もちろん詳しくも具体的にもここでは語らないけれど。トンデモぶりでは勝るとも劣らない(いやむしろ、勝ってるかもしれない)。
 瀬戸川猛資御大はたぶんこれ、読まなかったろうなあ。読んでたら、絶対にどっかで目につくように騒いでたろうなあ。あーいう作品や、あーいう作品も大好きな人だったんだから、きっとコレもかなり気に入ってくれていたと思うが。

 いやまあ、作りというか海洋冒険作品としての作法そのものは、おおむね正統派なんだけどね、それだけにようやく明らかになる大ネタのぶっとびぶりと、その趣向を支える文芸のアレコレのお笑い度が強調される(笑)。
 あと悪役の設定というか文芸も、なんつーか(笑)。
 もうひとつ別の言い方で呼ぶなら、英国冒険小説の史上に輝く前代未聞のバカミス。
 世の中にはこういう作品もまだまだ眠っているのであった。これだからミステリファンはやめられない。
(それでいいのか、といういくばくかの疑問も頭をよぎるが。)

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