皆殺しの時 私立探偵マイク・ハマー |
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作家 | ミッキー・スピレイン |
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出版日 | 1985年05月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/04/28 15:28登録) (ネタバレなし) 1960年代後半のニューヨーク。「おれ」こと私立探偵マイク・ハマーは、旧友で戦友のリプトン(リッピー)・サリヴァンの惨殺事件を調査する。リッピーの部屋は荒らされ、周囲に現金を抜かれた財布が捨てられて、口座にはそれなりの預金残高があった。ハマーはリッピーがひそかなスリ常習犯だと考え、何かまずいものをスったことから殺されたのではと推察する。そして同じ頃のNYでは、さる凶悪な細菌兵器が蔓延する予兆があった。政権交代前のソ連がひそかに20年前から潜入させていた謎のエージェントによる破壊工作で、最悪の場合は全米に天文学的な被害が出る。細菌兵器の行方を追うパトリック(パット)・チャンバース警部たち捜査陣とアメリカ政府、そしてソ連の関係者。そんな緊急事態を認めつつ、ハマーと美人秘書のヴェルダは延々と、リッピー殺しの手がかりを求めるが。 1970年のアメリカ作品。ハマーシリーズ第11弾。 数十年ぶりの再読である。評者はシリーズ第10作目『女体愛好クラブ』は未読だが、すでに一度縁があるこちらが近くにあり、内容がどんなだったかなんとなく気になったので、読んでしまった。 なおAmazonの書誌データ登録がヘンだが、ポケミスの実際の初版は1972年の11月15日。 しかしさすがに大設定以外の細部は、ほとんど忘れていたな。犯人や黒幕の正体も失念していた。 大量死(の危機)と相対化される一市民の殺人事件というコンセプトが、笠井潔のかの物言いや21世紀の作品『地上最後の刑事』なども想起させる。実際、ハマーも数日後には何万という死者が出て、こんな事件などなんの意味もなくなると自嘲したりする。 そして大都市NYに迫る一大危機という趣向は、カッスラーの『QD弾頭』やラピエール&コリンズの秀作『第五の騎手』みたいだ。 とはいえ『地上最後の~』みたいな隕石が迫るという絶体不可避の危機とは違い、かなり望み薄とはいえ、細菌兵器発見の希望もわずかなりとも残されているのに、そちらの案件に協力もしないで友人殺害事件の捜査に徹するハマー(ヴェルダの方は細菌兵器の件を知らない)の姿はかなりクレイジーというかファンキーだ。 (まあパット・チェンバースからすれば、いくら友人で辣腕の探偵とはいえ、官憲でもないハマーにこんな大事に介入してほしくない、という思いもあるだろうが。) この職業意識というかハマーなりの仁義の切り方も、スピリット的な意味で広義のハードボイルドだとは思う。 ネタに関してはスパイ小説ブームもひと段落しちゃったなか、タイガー・マン(評者はまだそちらのシリーズはまったく未読)で使い残した国家間の謀略アイデアをハマーシリーズの方にもってきた可能性も見やったりする。 実際のところはどうか知らないが、少なくともタイガー・マンはこの時点ではもうお役御免にはなっているんだよね? ミステリとしては作者の手癖で書いたような感もあり、真犯人や工作員の正体についてはあまり良い点はやれないが、伏線の張り方はちょっとイケる歯ごたえがあった。終盤で推理をふりかざし、名探偵になるハマーのキャラクターは楽しい。 ヴェルダは大活躍するが、一人称で物語を語るハマーとは別行動のため、ほとんど叙述の表面に出てこないのが残念(まあ女房役の彼女がそばにいると、ハマーはゲストヒロインの美女たちとあれこれできないし)。ヴェルダが情報の聞き込みをした町の連中たちに、あとから改めてハマーが出会うと、彼女のエロいいい女っぷりをみんな口を揃えて褒めたたえるのが笑える。 (しかし再読して今回はじめて気づいたけれど、たぶんハマーとヴェルダはこの時点ではもう男女の仲だね。世界最長の婚約者だと、ぼやくヴェルダが可愛い。) 翻訳が高見浩だったことに改めて気づいて、ちょっと驚いた。こんな大物がシリーズを訳していたとは(まあマック・ボランの主力訳者のひとりでもあるから、こういうのもスキなんだろうけど)。 とにかくグイグイと進んでいく展開で楽しめる。こなれて丸くなった時期の中年ハマーだけど、まあこれはこれで。 |