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ミステリの祭典

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夏色ジャンクション
加筆改題『夏色ジャンクション 僕とイサムとリサの8日間』

作家 福田栄一
出版日2010年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/04/25 14:01登録)
(ネタバレなし)
 20代半ばの信之は恋人の氏家奈緒と友人の笠原拓也に裏切られ、それが遠因で失業して相応の借金を負った。現在は唯一の財産といえるミニバンの中で暮らす毎日だが、ふとした縁で行き倒れの老人・浮田勇を助ける。勇がさる理由から東北を目指し、そしてバッグになぜか700万円の現金を携帯していると知った信之は、勇を目的地に送る手伝いをしながら、その金を奪おうと考えた。さらに途中で、やはり当人の事情から青森を目指す二世のアメリカ娘リサ・マリー・テイラーを旅のともに加える一行だが。

 文庫版で読了。
 信之が悪心を起こして勇のお金の強奪を企んでいることからクライム小説の一端とはいえますし(笑)、広義のミステリととれますが、それ以上に普通の青春小説でヒューマンドラマでロードームービー的ストーリーである(カーアクションとスリル、サスペンス、警察の介入などの要素もあるけれど)。
 文庫版の表紙周りにも解説にも、特にミステリとは謳ってないけれど、まあその程度にジャンルとの接点がある青春小説ということで今回のレビューを。

 男女の若者ふたりと年長の男性トリオの車旅といえば『幸福の黄色いハンカチ』だろうが、読了するまであの映画のことはまったく念頭になかった。つまり個人的には大枠以外、そっちとはまったく別ものの印象。
 本当にスムーズに進行すれば2~3日で終わってしまいそうな話が、その倍以上の日数のストーリーに延長。それに見合ったイベントがいくつか用意されているが、いわゆる「神の手」になった作者のあざとさはほとんどない。
 優しい局面もあれば苦い事態もあり、その混淆を経て迎える主人公トリオそれぞれの、そして3人まとめての着地点もまた、本作の味わい。
 突き抜けたものはほとんどないけれど、いい作品である。こういうものをホメると(中略)とかいわれそうだが、まあいいや(笑)。ひと晩、じっくり楽しめた。

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