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ミステリの祭典

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モッブー死神ー
漫画

作家 池上遼一、滝沢解
出版日1984年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2021/04/25 10:17登録)
池上遼一というと、付く原作者が誰であったとしても、ジャンルはハードアクションに違いないし、ヘンに衒った超人思想とそれを絵として説得できる美麗な画力...なので、一応本サイトでも作品によっては「ミステリ」枠で捉えていいんじゃないかと思ってます。というわけで本作。1981年に創刊したてのビッグコミックスピリッツに連載。これの後継連載がヒット作の「傷追い人」なんだけど、打ち切り臭くて小学館から単行本が出ずに、初出版はスタジオ・シップから(1984)。「怪作」の誉れ高き漆黒のノワール。
いや本作というね、第一部「青春は錆びているか」で展開するヤクザ皆殺し襲撃事件に突っ走り自殺的な最後を遂げる早瀬新八の話、第二部「水晶の野獣」でその弟銀八が乗り込んだ「暴力というバス」を支配する美少年ガスマンの話、そして謎解かれる第一部の兄の死の真相が、本当に辻褄が合っていない。「整合性皆無」と評されるのがふつうなのだから、「謎解き」に拘泥する読者は「はあ!?」というものなんだろうけども、評者なんかは、この整合性を無視して、アチラの方向へジャンプして果てている姿が、実に「奇書」という感じで肯定的に捉えたいと思うのだ。いや、そうしたくなるくらいに、本書のデテールは奇怪にして美麗な奇観の連続、めくるめくジェットコースターのようなオージーを見ているかのよう。

・端午の節句のお祝いの品を身につけて帰ってきた幼稚園児が、その母を騙して凌辱する新八の背の「鯉の滝登り」の刺青を凝視する
・この幼稚園児が新八に一矢報いたあとに、新八が襲撃の一斉射撃で散る死にざま
・視界すべてを強烈に歪ませるゴーグルを常に装着、コンピュータに打ち込んだ哲学者・思想家・文学者のアフォリズムだけをガイドにして、5人のボンテージの「軍隊」を引き連れ、夜の街に無意味な暴力衝動を発散する「地獄の美少年」ガスマン。

なので、シーンシーンのノワールとしての「強烈さ」は類をみないほど。それが池上遼一の絶頂期の流麗な絵で描かれている....デタラメと言わばアナーキー、キッチュと言わば幻怪。奇書好みがある場合に限っての、おすすめのマンガ。

おたくはんら大人(オジン)とちがって 短いんだ青春は!!

とこれが捨て台詞。80年代初頭で辛うじて花開けた暗黒の青春。「整合性皆無」を肯定的に表現すると「刹那的な魅力を湛えた」になるらしい。確かに、当たってる。

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