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ミステリの祭典

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キュラソー島から来た女
フライプストラ警部補&デ・ヒール巡査部長/別題『オカルト趣味の娼婦』

作家 ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク
出版日1981年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2025/04/29 16:02登録)
いいよ、これ。
今となっては埋もれてしまったオランダ産警察小説。警察小説の「事件を介して描かれる人間模様」というあたりに忠実で、しっかり描かれた小説という印象。主人公の漫才コンビのフライプストラ警部補とデ・ヒール巡査部長とがど~でもいいことを、87分署どころではないくらいにずっとずっと喋り続けている。それが、いい。さらに言えばその上司で脚の痛みに悩まされる退職目前の「名無し」の警視がいい味出している。

殺された被害者は、自前の豪華ハウスボートで客を取る高級娼婦。この女はベネズエラの沖合にあるオランダ領植民地キュラソーの出身で、島の呪術師の弟子として魔術を使うという評判の女。警視がこの女の身元をキュラソーまで出張して調査。これが中盤でもなかなかの読みどころ。A.H.Z.カーの「妖術師の島」とかストリブリングの「カリブ諸島の手がかり」を思わせる。

リアリズムが売り物の警察小説にオカルト。コリン・ウィルソンの「スクールガール殺人事件」もそういう設定のわけだが、ミスマッチを狙った面白味が本作でも発揮されている。リアル・現実的に解釈された「呪術」というものの微妙な性質が、リアルに描かれた本作でも発揮されている。たとえばクイーンの大好きな「操り」だって、本質は「呪術」なんだよ。パズラーだったら呪術の曖昧さは許容されないけども、警察小説ではこの曖昧さが作品の幅になりうる。そこらへんも興味深い。

そしてオランダ最北端の島スヒールモニコッホでの、バードウオッチングから展開する銃撃戦の流れなど、意外な展開で楽しませてくれる。アムステルダムの運河に浮かぶ豪華ハウスボート・南米キュラソー島・湿原の島スヒールモニコッホとロケーションの妙もあって飽きさせない。

まあとはいえ「地味」。でもこの地味さがたまらない味わい。拾い物の秀作。

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