home

ミステリの祭典

login
口から出まかせ

作家 藤本義一
出版日1978年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/04/17 02:57登録)
(ネタバレなし)
 卒業後の進路に意欲が湧かず、留年を選んだ二流私大生の短兵は、ある日、禿頭の中年男、熊蔵に出会う。彼は表向きは香具師だが、実はプロの哲学をもつ年季の入った詐欺師だった。熊蔵の裏稼業に触れて関心を抱いた短兵は彼に弟子入りし、正道の詐欺師の道を歩み出す。

「オール讀物」に昭和51年から53年にかけて掲載された、全7本の連作短編ピカレスク。
 
 家の中で見つかった文春文庫(たぶん、亡き父の蔵書だったらしい)で読了。
 <昭和のタレント文化人>としての生前の著者の活躍にはテレビなどで接した記憶はあるが、小説の実作を読むのは今回が初めて。タマにはこういうのも面白い。

 発端編を経た2話以降は、何らかのマクラをもとに開幕。熊蔵が計画した作戦に、その全貌が見えないまま短兵がのっかり、短兵自身も細部では彼自身のアドリブを利かせながら計画を遂行するのが基本パターン。
 大抵は後半~終盤で計画の狙いがようやく明かされるという定型ぶりで、各編に多彩なコン・ゲームものとしての楽しさがある。
 
 各話のネタは作者なりに裏の世界の取材をした成果らしく、詐欺の手口にもバラエティが感じられて興味深い。
 とはいえ(アタリマエながら)基本的には、ネットもスマホも携帯も電子マネーもない時代の詐欺行為。騙しのテクニックなども隔世の感があり(実際にそうだ)、もはやノスタルジックな時代風俗の興味で読ませる部分も大きい(笑)。

 21世紀の現実の老人を騙すオレオレ詐欺なんかにはリアルな嫌悪感しか抱かないが、人心を尊び、時に被害者側への配慮までわきまえた(ほぼ愉快な詭弁ながら)本作の主人公たちの行為は、フィクションの枠内での健全なエンターテインメントとして容認されるよね。
 そういう意味では、ある種のロマン作品、まさにピカレスク浪漫であった。

1レコード表示中です 書評