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ミステリの祭典

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第3の日

作家 ジョゼフ・ヘイズ
出版日不明
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2021/04/10 18:37登録)
(ネタバレなし)
 1963年9月の下旬。ニューヨークの一角で一人の男性が、自分が負傷してそして記憶を失っていることに気がつく。彼は、出会う人たちが呼びかける名前と懐中の所持品から、自分が当年35歳のチャールズ・F・バンクロフトなる人物だと認定。チャールズは所持していたメモ書きに導かれて、知人らしき老婦人エーデル・バランショアを訪問。一方で直感的に自分の記憶喪失の件は、ぎりぎりまで周囲に伏せておいた方がいいと判断しながら、やがてニュージャージーの、妻アリグザンドリア(アレックス)の実家パーソンズ家へとどうにか帰り着く。パーソンズ家は先祖代々、高級帽子の製作販売で成功を収めた土地の名士で、チャールズも社長オースチンの娘婿の立場で、事業の要職を務めていたらしい。だが1年前にそのオースチンが病床についてからは、会社の業績は急落。現在は会社を譲渡すべきかの論議がなされている最中だった。やがてチャールズは会社周辺の騒動とはほかに、別のトラブル~事件に直面することになる。

 1964年のアメリカ作品。
 現状でAmazonにデータ登録がないが、邦訳は井上一夫の翻訳で角川文庫から1971年3月10日に初版が刊行(本文450ページ。定価280円)。

 作者ジョセフ(ジョゼフ)・ヘイズは、1918年にインディアナポリスで生まれたサスペンス系のミステリ作家。
 本サイトでのtider-tigerさんによる『暗闇の道』のレビューでは同作しか邦訳がないようだとあるが、実際は同作と本作、さらに早川ポケットブックに収録の『必死の逃亡者』とのべ3作品が紹介されている(tider-tigerさん、ヤボな指摘(ツッコミ)、誠にすみません~汗~)。
 
 評者がヘイズ作品を読むのは今回が初めてだが、本作品も本そのものは大昔に古書店で入手(巻末の角川文庫目録ページの上に40円と鉛筆書きがあった)。

 例によっての書庫からの蔵出し本(汗・笑)だが、本作については大昔にミステリマガジンのリアルタイムの月評で「記憶喪失もので面白い作品を読んだ覚えがない」と簡素に切って捨てられた一方、本作を話題にした後年の「本の雑誌」とかの記事などで「これはとんでもなく面白かった」と褒めてあり、その感想の差異の大きさに軽く驚いたという推移がある。

 しかしこの時期の角川文庫の翻訳ものは、初期の早川NV文庫などと同様、表紙周りにあらすじも作品の素性も記載していない、登場人物一覧もついてないというヒドイ編集&仕様なので、なんか敷居が高かった。

 それでまあ今回、思いついて勢いで読んでみたが、いや、これは面白い! ミステリマガジンではなく本の雑誌の記事の方に軍配(笑)。

 前述のように本の外側にまったく情報のないので、今回はまず本文より先に、井上一夫の訳者あとがきから読んでしまったが、そこでは<本作はタイトル通り三日間の物語>と記述。450ページはそれなりに厚めだが、しかし一方で三日間の時間枠限定でストーリーが決着するならかなりハイテンポだろうと期待したが、まさにその通りの内容。
 ただし主人公を追い詰める流れ、かかわり合ってくる登場人物たちの扱い、それらは全体的に自然なので、お話の流れに人工的な無理はほとんどない(皆無とは言えないが)。
 作中では犯罪(殺人?)にからむミステリ要素も用意されているが、どちらかといえば物語の基軸は名門実業家パーソンズ家内部の人間ドラマ、さらには企業「パーソンズ帽子」の乗っ取り? 劇の方に比重が置かれる。その辺の話の築き方が、のちのちのシドニー・シェルドンの先駆のようなティストで、かなり読み応えがある。
 訳者あとがきによるとあのバウチャーも年間ベストの一つとして賞賛したというのも、実に納得のいくところだ。

 ページ数が残り少なくなっていくなかでギリギリまでテンションを保ちながら、終盤でのまとめかたも「ああ、アメリカの(中略)だなあ」という感慨を呼ぶが、こういう作品はこれでいいのである。半世紀も前の旧作だしな。
 運よく古書店で安く出会えたり、図書館で借りられたりしたら、読んでみてもいいかもしれませんね。
 評価は0.5点ほどオマケ。

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