重犯罪特捜班 ザ・セブン・アップス |
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作家 | リチャード・ポスナー |
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出版日 | 1974年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/04/08 14:42登録) (ネタバレなし) ニューヨーク市警内に創設された「セブン・アップ特捜隊」。それは「セブン・アップス」(刑務所に収監されれば、7年以上の量刑を受ける重犯罪者を意味する隠語)を主体に捜査と逮捕を行う、中年で独身の敏腕刑事バディー・マヌッチをリーダーとする特捜部隊だ。厳粛に法規を遵守するゆえに守勢に回り、警官側の被害と犯罪者の横行を許していたNY市警にとって、攻勢のセブン・アップ特捜隊は期待の組織だったが、同時に警察内外からも危険視される見方があった。そんななか、NYでは、マフィアの大物を誘拐して身代金を奪う犯罪者が暗躍。バディーは、幼なじみの親友で病身の妻ローズを抱えた情報屋ビトーに接触し、さらに不穏な動きの暗黒街に愛妻家の部下の刑事ケン・アンセルを潜入させるが。 1973年のアメリカ作品。同年にアメリカで公開された(日本では74年公開)20世紀フォックスの、本書と同じ邦題の映画『重犯罪特捜班 ザ・セブン・アップス』のノベライズ作品。 評者は、原作映画はまだ未見のはず。映画本編を観る機会がなかなか得られなかったり、あるいはこちらから読んでもいいかなと思ったノベライズを原作映画より先に手にすることは、ままあるが、これはそんな一冊。 HN文庫の訳者(佐和誠)のあとがきを読むと、小説がいかにも映画の原作のように思わせぶりに書いてあるが、巻頭の原書版権クレジットなどを見るとあくまでノベライズなのは一目瞭然。60年代~70年代の半ばごろまでは日本の一般読書人のなかに<先に映画があり、それを小説化したノベライゼーション>という概念がまだ浸透しきっていなかったので(もちろんちゃんとその辺をわきまえている人もいたが、そんなに多くはなかった)、だからその時期の早川書房などではいくつかの作品を実際にはノベライズなのに「原作」と称して売っていたはずである(当然、該当する時期のノベライズの全てがそうだとはいわないけれど)。 ノベライズという文化に関しては、基本は「しょせんは後追いのもの。単品で楽しむならまずほとんどは、原作の映像作品の方が面白い」という観測と「ノベライズでも面白いものは面白い、時には原作の映像作品よりも面白い」という意見の双方があり、そういうそれぞれの主張はミステリマガジンの読者欄とかミステリサークル、SRの会の会誌「SRマンスリー」の誌上とかで延々と目にしてきた。 評者は個人的には後者で、作品の立ち位置を正確に認識して、適宜に評価しながら読むならノベライズそのものにも、十分に一冊の小説作品としての価値があるとは思う。 (要は具体的には、映画を未見で先にノベライズを読んだときは、その面白さが小説独自の脚色や演出で生じたものと即断せず、原作の映像作品からの継承要素である可能性も常に意識したい、ということですな。) そういう訳で本書(ノベライズ版『セブン・アップス』)だが、とにもかくにも地の文に力があり、一本の警察小説ミステリとしてかなり面白い。のちのちにベテラン訳者となる佐和誠の翻訳もかなり達者だとは思うし、それこそ映画がベースかもしれないが、セブン・アップス特捜隊とマフィアや誘拐犯たち犯罪者側の好テンポな視点切り替えが効果を上げて、ストーリーに絶妙な立体感を与えている。 ちなみにセブン・アップス特捜隊の実働メンバーは主人公バディーをふくめて4人だが、その過去の人間像なども細かく叙述。この辺は確実に、小説としてのメディアでの利点(テキストでの情報量を書き込める)を活かした感触だ。 それでこれはもしかしたら原作の映画も込みの? 感想になるかもしれないが、本作は警察内部で危険視されるセブン・アップス特捜隊の微妙な立ち位置も丁寧に叙述。NY市警の正道の捜査官で常日頃は特捜隊を半ば敵視しているジェリー・ヘインズ警部補が、いざ特捜隊に被害が生じた時には、何のかんの言っても同じ警察官として思いやりを見せてくれるところなんか実に泣かせる。あとこれはネタバレになりそうだからあまり書けないけれど、本作は警察捜査(アクション)ミステリでありながら、隣接するジャンルのある定型的な主題まで押さえ込んでいて、その意味でもなかなか読み応えがあった。 終盤のクライマックスは、小説として紙幅がどんどん残り少なくなっていくなかでなかなか最後の決着に至らず、この辺の読み手を焦らすテンションの高さも印象がいい。 なお小説執筆担当のリチャード・ポスナーは、これ以外、全然聞かない見たこともない作家。本国ではもっと活躍してるのか。これ一本で消えてしまったのか。もしかしたら別名で著作があるのか。いずれにしろ、かなり読ませる書き手という感触だった。 小説オリジナルで「セブン・アップス特捜隊」シリーズの続刊とか出ていてもいけたんじゃないかな、そう思ったりする(まあもしかしたら、原書ではそういう流れがないとは……万にひとつくらいは可能性はある……のか?) |