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ミステリの祭典

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ドンとこい、死神!
改題『死に神はあした来る』

作家 辻真先
出版日1975年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/04/06 06:12登録)
(ネタバレなし)
 一年前の山梨県笛吹川の大水害のなか、両親を失った高校生の風早圭。圭は後見人的な立場の伯父、英造とその妻、松江の夫婦を自宅に迎える形で同居していたが、ある日、工事現場で頭上から重量物が落下し、危うく死にかけた。だがその災難を機に、圭は寿命のつきかける寸前の人たちの周囲に出現する<死に神>が、彼だけに見えるようになった。そして死に神は、圭の幼なじみで同級生の美少女、柘植礼子の周囲に出現。圭は懸命に礼子を救おうとするが、彼の苦闘は裏目に出て、むしろ圭のために礼子が死ぬ流れになる。礼子の死をあきらめきれない圭は、自分だけに見える死に神に強引に深い接触をはかり、死の世界から礼子を取り戻そうとするが。

 1970年に、本邦ライトノベル叢書の先駆といえる「サンヤング」(朝日ソノラマ)から刊行された作品。元版は「ミステリーヤング」の肩書で上梓されたが、内容は青春ホラーアクション異世界(冥界)ファンタジー。まあ広義の「ミステリー」だし、さらにこの頃は「ミステリー」といえば、怪奇幻想ものに寄った含意もあったとは思う。
 なおソノラマ文庫に入ったときに『死に神はあした来る』といささか地味なタイトルに改題(現状でAmazonにはこの改題後のソノラマ文庫版のみデータ登録されている)。
 なぜゆえに死神に「に」が入る? とも思うが(本文も同様に「に」入り)、それはさておき、評者は今回、こっちのソノラマ文庫版で読んだ。

 長寿作家・辻真先の膨大な著作群の先鞭をつける、きわめてごく初期のオリジナル小説のひとつ(もしかしたらノベライズものを別にすれば、これが本当にオリジナル長編の第一弾か?)だが、そんな小説分野に踏み出したばかりの作者の若い(といってもすでに40近いが)日の情熱ゆえか、お話のはっちゃけぶりはなかなか凄まじい。

 冥界の死に神に知己を得て食い下がり、何回かわざと死んでは(あるいは殺されるのを甘受しては)恋人の礼子救出を二度三度とやり直す大筋もぶっとんでいるが、一方で現実世界でも次第に、実は隠されていた大きな秘密が明かされてくる。この辺のストーリーの立体感は、お世辞抜きにさすがは辻センセの本領発揮。
 くわえて冥界では青池保子の『イヴの息子たち』かファーマーの「リバーワールド」風の<あの手>の趣向も用意されていて、しかもそのキャスティングのイカレっぷりにすんごくニヤリとさせられる。

 なんでもアリが許されるような作品なのでラストはどうまとめてもいいとも思ったが、予想以上に手堅く組み上げており、その辺もまたちょっと唸らされた。

 キャラクターでは特に(中略)の、(中略)と(中略)を行ったり来たりの人物造形がケッサク。あの世からの恋人奪回というメインプロットの流れにおいてはイマイチ重要度は低い? 作中人物という気もするが、それでも当該キャラクターの存在ゆえに、この作品はかなり厚みを増したとは思う。

 辻作品の体系に関心のある人、あるいはその超人的な実績のルーツを探りたい人とかは、一度手にとってみるのも、よござんしょう。 

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