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ミステリの祭典

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悪党パーカー/怒りの追跡
悪党パーカー

作家 リチャード・スターク
出版日1986年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2021/04/08 10:38登録)
 パーカーは、肘から先に窓にとびこんだ。木片やガラスの破片が軀のまえでとびちり、銃弾が頭のそばをかすめる。残りの二人は間違いなく死んだだろう。森を突き抜け何とかかれが体勢を立て直した時には、裏切り者ジョージ・アールの車は、商農信託銀行からの強奪金三万三千ドルと共に走り去っていた・・・
 危機を脱したパーカーは愛人クレアに元手を送らせ、夜を日に継いでの追跡を開始した。アールの行先を知る第一の手掛りは、その仕事仲間マット・ローゼンスタインだ。が、罠はそこにも待っていた。隙を突かれて自白剤を注射され、何が狙いなのかをすべて知られてしまったのだ。いまやアールの行方を追うのはパーカーだけではなくなった!
 怒りの炎を燃やしひたすらに裏切り者を追う犯罪者の孤独な追跡行を描く、シリーズ異色篇。
 原題 "THE SOUR LEMON SCORE" 。『悪党パーカー/漆黒のダイヤ』に続くシリーズ12作目で、クレアと出会う第9作、『裏切りのコイン』に始まる〈SCOREシリーズ〉全四作の最終篇でもあります。タイトルからあらかた結末の察しは付くのですが、それでも問答無用に面白いのがこのシリーズ。徹底したハードボイルド・スタイルとテンポの早い語り口に加え、乾いた暴力描写と妙にシュールなギャグとで全く飽きさせません。

 マッジとすごしたときのようだった。電話が鳴るのを待ちながら、他人の茶飲み話を聞いてすごす。コーヒーとクッキー。パーカーはすこしクッキーを食べた。なかなかいい味がした。
 (中略)パーカーは肩をすくめた。コーヒーを少し飲んだ。これまたいい味がした。

 無防備にヤク入り茶菓子をパクついては、更に厄介な連中を引き込む羽目になる主人公。次作『悪党パーカー/死神が見ている』で tider-tiger さんも評しておられますが、この頃のパーカーは非情に徹し切れなくなってるというか、弛んでますね。それはやっと捕らえたジョージへの対処を見ても明らか。『人狩り』時代のパーカーなら、何があろうと即刻ブチ殺したでしょう。"宿敵" とか煽ってますが今回の相手ジョー・アールはハッキリ言ってザコ。なのに変な仏心のせいで、後々まで禍根を残す事になります。
 メインの仇役がショボい分、テコ入れして変則の二頭立て。途中から割り込むローゼンスタインとブロックのホモコンビの方は、結構いい味出してます。特に後者はなし崩しに悪事に加担させられてる上、手塩に掛けた趣味全開のアパートメントまで破壊されちゃってすごくかわいそう。完全カタギのエド・ソガーティその他、自己本位野郎にいくら尽くしたって何にもならない、という好例目白押しです。
 〈平凡な主婦の仮面の下で、ひどく食えない、世故にたけた女が息づいている〉死んだベニーの妻グレイスを筆頭に、いいキャラもいるし描写もいいんだけど、肝心のパーカーが緩いんで全体としては微妙かな。訳は池上冬樹氏の名文ですが、内容的には『漆黒のダイヤ』より若干落ちてギリ6点。とはいえレベルはそんなに変わりません。

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