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ミステリの祭典

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アラベスク

作家 アレックス・ゴードン
出版日1966年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/04/04 04:47登録)
(ネタバレなし)
 アメリカの大学で毎週短時間だけ歴史を教える38歳の考古学者フィリップ・ホーグは、あまりに少ない年俸に喘いでいた。美人の妻ミッジ(マーガレット)は甲斐性なしの夫に呆れ、娘のデイディを連れて家を出る。だがホーグは大好きな象形文字の学究のため、わずかな収入でも大学を離れる気はなかった。そんなとき、ホーグの教え子で中東の某国から留学中の少年エーヴァ・ベシュラーヴィが、高額のバイトを申し出た。エーヴァの父デーイムは先日不慮の転落死を遂げたが、彼が解読する予定の業務上の暗号文書が解けないまま遺され、伯父のナージュが難儀しているという。その暗号の解読に、ホーグの持つ象形文字判読の学識が有益だと見込まれたのだ。この話に応じるホーグだが、やがて彼は予想もしない陰謀の渦中に巻き込まれていく。

 1961年のアメリカ作品。1966年のアメリカ映画『アラベスク』の原作ミステリで、同年に映画が日本で公開されたのに合わせて邦訳された(ポケミスの初版は1966年8月31日刊行)。
 
 映画は未見だが、Wikipediaによると、大学の教員が暗号解読を頼まれるという大筋などのみが原作と共通。映画の舞台は英国で、主演のグレゴリー・ペックは独身のオックスフォード大学の教授に設定を改変されている(主人公の名前も違っているようだ)。共演のソフィア・ローレンのセミヌードスチールがなかなかイヤラシイが、この映画のヒロインの設定もほぼセミオリジナルらしい。なお小説の原題は「THE CIPHER(サイファー=暗号)」。
 
 全体的にアメリカ作品というよりは、英国の巻き込まれ型冒険(中略)スリラーを思わせる雰囲気の内容で、その意味では映画が物語の場をイギリスにしたのは、非常に得心がいく。
 読んでいる最中の感触は、80年代の文春文庫の単発の翻訳ミステリ、あのへんの気分に非常に近かった。適度に都会派で適度にユーモアがあって、そして淡々とそれなりに面白い感じ。
(本作の場合は中盤ちょっとかったるい感じもあったが、一方で場面場面では、なかなか印象に残るシーンもあったりする。)

 主人公はもちろんホーグだが、途中から副主人公的なポジションとしてVIPを警備する「特別警備の鬼」と異名をとる独身の中年警部トーマス・L・ドチャーティがかなりの場面に登場。三人称の小説形式を活用して、二人のメインキャラが軸となって物語を進行させていく。
 暗号の謎、その向こうに潜む陰謀、意外な黒幕などそれぞれまあ良い意味で水準点、という印象。
 かたやキャラクタードラマの方は、作者の当初からの構想にぶれがなく収まるところに収まる感じで、この辺のくっきり度には好感を抱いた。

 やや倦怠を感じる箇所もあるが、全体的には佳作のスリラー。映画と切り離して一本の小説として接しても、それなりに楽しめるだろう。

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