home

ミステリの祭典

login
狙われる男
ブラック・チェンバー

作家 生島治郎
出版日1970年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/04/03 18:54登録)
(ネタバレなし) 
 部長の桂秀樹が統括する、警視庁の特捜部隊「影」。同組織は「ブラック・チェンバー」の別称で警察内に知られ、所轄を超えた自由な捜査権を持つ。だがそれは同時に、国内各地の犯罪やトラブルへの対処を何でも強いられる、どぶさらいのような仕事であった。「影」の主力である二人の刑事、青年・鏡俊太郎と中年・轟啓介は今日もまた新たな事件の中に。

 1969年からフジテレビ系で2クール放映された1時間枠のテレビドラマ「ブラックチェンバー」(主演、中山仁、内田良平。番組は後半『特命捜査室』に改題)の原作。
 本書『狙われる男』には7編の連作中短編(鏡と轟の事件簿)が収録されている。

 評者が読んだ本作『狙われる男』は1970年の元版で、テレビ番組とほぼ同時に刊行。
 生島が番組プロデューサーの要請に応じて先に原作設定を提出し、番組の流れが定まってから、タイアップ的にどこかの雑誌にこの「原作小説」を連載したのかもしれない。

 テレビ用企画が先行か? と疑うと何となく安っぽく思えるところもあって、これまで読まずに放っておいた。が、いざ読み出すとエピソードのネタはバラエティに富み、また一方で良い感じに生島ハードボイルドになっていて面白い。

 なんというか、志田、久須見、紅真吾あたりの生島の生粋の自前キャラなら、あとあとまで大事にしたいのであろう作者の思い入れゆえにソコまで汚れ役を任せられないような際どいテリトリーまで、テレビ企画用の使い捨てキャラという意味合いで踏み込ませている気配がある。
 そういうニュアンスで期待以上にワルの匂いが漂っていた主人公たちだが、そう構えて付き合おうとすると関係者への人情や繊細な弱い面も披露してきて、なかなかキャラクターの懐が深い。

 潜入捜査官という設定ゆえ、最初はメインゲストキャラの視点で物語を始めて、そこに変名を用いた鏡たちが介入してくるパターンの話なども随時用意され、お話の内容はなかなかバラエティ感豊か。
 全部が全部秀作というわけではないが、それなりに手の込んだストーリーに続けてシンプルなプロットの話が続いたりするのも、一冊の連作ミステリ集としての起伏につながっていって楽しかった。
 外出時の読み物としては結構な一冊で、就寝前にもベッドに持ち込んで何編か読んだ。
「こういうもの」が楽しめるヒトなら、読んでもいいんじゃないかと思うよ。

1レコード表示中です 書評