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ミステリの祭典

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ダブル・デュースの対決
私立探偵スペンサー

作家 ロバート・B・パーカー
出版日1993年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/03/31 13:46登録)
(ネタバレなし)
 ボストンの公営住宅地で、黒人のスラム街「ダブル・デュース」。その年の4月13日にそこで、14歳の黒人娘でシングルマザーのデヴォナ・ジェファスンとその赤ん坊が射殺された。理由は、デヴョナの彼氏「トールマン」が麻薬の売人だったことにからむらしい。黒人牧師オレティス・ティリスたち町の人々は、黒人の荒事師ホークにデヴォナ殺しの犯人の捜査と町の浄化を依頼。「私」こと私立探偵スペンサーはホークの要請を受けて、ともに、町に巣くう不良少年一味「ホウバート」と対峙する。

 1992年のアメリカ作品。スペンサーシリーズの第19弾。

 評者は本シリーズは初期編はそれなりに愛読。そのあと『約束の地』(権田萬治いわく<「警察の御用聞き」私立探偵小説>)だの『ユダの山羊』(プロットのシンプル化が加速)だののお騒がせ作品が出るようになってから、何となく雰囲気が変わり、でも『初秋』は人並に好感。そんななかで一番スキなのは、とある事態へのスペンサーの対応が、いまでいう厨二的? にキマった『儀式』だったりする。

 その『儀式』(シリーズ9作目)を最後にこのシリーズからは離れていたが、書庫をかきまわしたら、なぜか古書で買っていた本作のハードカバー版が出てきた。
 それでシリーズとしてはつまみ食いの流れは承知で、気が向いて読み始めてみる。たぶんウン十年ぶりのシリーズとの再会。

 本作のポイントは「黒人スラム街もの」「ホーク主役編」「黒人不良少年もの」「ホークとゲストヒロインの黒人美女とのラブロマンス」などなど。
 ひさびさに読んだこの時期の菊池光の訳文のカタカナ表記はスゴイし(発音の文字への置換でクセが強すぎる)、お話も例によってシンプル。ミステリとしてはこの上なくどうということもない内容。ただまあそういう読み方で付き合う作品ではないね。
 今回は特にスペンサー&スーザンが、新聞の日曜版の文化欄で語られる非行少年問題について、あれこれ私見を述べている中流家庭の人たちみたいである。
 まあこのシリーズは往往にしてそんな感じだが。

 ホークとメインゲストである黒人不良少年チームのボス、メイジャー・ジョンスンとの関係性、その推移はちょっと印象的だった。
 ただしそれ以上にちょっと心に引っかかったのは、ラストでスーザンに向けてスペンサーが語るある述懐。
 90年代の現実で卑しい町を歩く私立探偵としては、コストパフォーマンスの高い一言であった。

 読後にAmazonのレビューを読むとシリーズ復調の快作とかファンの快哉がワンサカ。
 ほとんど一見さんみたいな出戻りファンとしては、とてもこの熱狂にはなじめないという感じで苦笑。
 個人的にはまあ佳作、くらいか。評点は0.5点オマケ。

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