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ミステリの祭典

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原色の蛾
刑事・徳田左近ものを含む

作家 西村寿行
出版日1977年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/03/27 05:22登録)
(ネタバレなし)
 昭和49~50年にかけて「問題小説」「小説宝石」の系列(本誌、別冊)に掲載された短編7本を収録した、文庫オリジナルの一冊。

 以下、簡単にメモ&寸評&感想。

「原色の蛾」
轢き逃げをした若い医者夫婦が、強迫者におびえて殺害するが……。若妻が脅迫されてNTRるイヤラしい描写など、もういきなり西村寿行らしさ爆発で、巻頭から楽しめる。蛾という昆虫の生態にからむ犯罪の露見は専門知識を黙って読むだけだが、語り口の鮮やかさは例によって素晴らしい。

「闇に描いた絵」
メインの動物はウサギコウモリ。若い不器用な女を主人公にしたゾクゾク感と、最後の意外性はなかなか鮮烈。

「黒い蛇」
トリッキィな趣向では本書の中でも上位に来る一編だが、欲深い中年主人公の行状が全体的に薄暗くもユーモラスな感触。以上の3作に、一応のシリーズキャラクターといえる警視庁捜査一課の初老刑事・徳田が登場。ほかの長短篇には出ていないのだろうか?

「高価な代償」
玉の輿に乗る娘を山中で二人組にレイプされ、その片方を射殺してしまった地裁判事。彼は社会的立場を考えて、さまざまな保身をはかるが……。ラストのどんでん返しが西村寿行版スレッサーという趣だ。

「毒の果実」
離婚の危機にある失業亭主とその若妻。そんな彼らの住むアパートの夜半に、丑ノ刻参りを思わせる釘の音が響き……。ストーリーの流れは面白かったが、これは作中のリアルとして弁明すればなにか抜け道がありそうな気もする。

「恐怖の影」
ドッペルゲンガーの幻覚におびえて故殺? をしてしまったと主張する容疑者。語り口の妙で読ませるが、良くも悪くもいちばんフツーの(以下略)。

「刑事」
若妻を大晦日~元旦にかけてレイプ、惨殺されて長い歳月をかけて真犯人を追う刑事の執念。本書のトリを務めるに相応しい力作で、後半に見えてくる根幹のアイデアというか文芸が強烈。事件の関係者=サブキャラとのからみの部分がちょっと(ハイテンションな短編~中編としては)ダレるかも。
 しかし最後の1ページのあの台詞は……寿行だよなあ……。

 以上、寿行は短編もイケると改めて確認させてくれる一冊。外出時のお供には最強の短編集でしょう。

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