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ミステリの祭典

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ツイン・シティに死す
私立探偵ホランド・テイラー

作家 デイヴィッド・ハウスライト
出版日1996年11月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点 人並由真
(2021/03/27 04:43登録)
(ネタバレなし)
 1990年代の米国ミネソタ州。地元セント・ポール市警の敏腕刑事だったホランド・テイラーは、酔漢のひき逃げ犯人に妻子を殺された。家族を失って刑事稼業にも虚無感を抱いたテイラーは退職し、私立探偵となる。だが探偵業を始めて4年目のある日、逮捕されて投獄されて途中から矯正施設に入っていたひき逃げ犯ジョン・ブラウンが、仮釈放の直後に何者かに射殺された。テイラーにも嫌疑がかかるが、潔白を訴えて放免。先の展開もない興味と思いつつ、ブラウン殺害事件を調べ始める。だがその調査はブラウンが収容されていた矯正施設の関係筋を介して、次の仕事の依頼に繋がった。それは次期ミネソタ州知事の有力候補で、美人のキャロル・キャサリン(C・C)・モンローのスキャンダル映像にからむ脅迫事件だった。やがてテイラーの前に、予期しない新たな他殺死体が。

 1995年のアメリカ作品。

 本ばっかりの部屋の中で、いつ買ったか覚えていないポケミスの古書が見つかった(ブックオフの250円の値札がついていた)。
 それで帯に「MWA最優秀処女長編賞」「ハードボイルド新時代を予期させるニューカマー」とあるのに興味を引かれて、読んでみる。

 そうしたらこれがメチャクチャ面白い! 

 ポケミスの裏表紙には、主人公テイラーが取り組む<美人知事候補がつい過去に過ちで撮影したという、ハメ撮りビデオテープ>にからむ脅迫事件のあらすじが書かれているが、実はこの流れになるのは本文50~60ページを過ぎてから。
 そんな主幹の物語に行くまでに、主人公の妻子の仇である酔いどれドライバー殺人事件、さらにはテイラー当人が仕事で調べている最中のヤクザの賭場のイカサマ事件なども過不足のない紙幅で語られる。そしてそれらの並行する複数の事件の中身が、次第に奇妙な流れで重なりあっていく?

 たとえばチーム主人公シフトの警察小説なら、モジュラー方式の複数事件を捌くのはメインキャラに事件を分担させることで、基本はそんなに大変でもない。

 だが本作の場合は一人称のハードボイルド私立探偵の主人公が
①当人の昔日の悲劇に関わる案件
②物語の開幕当初から抱えていた事件
③新たに持ち込まれた事件(これが本作の中でのメインとなる)
(まだあるかも?)
……と、それぞれの事件への食いつき方を違えるという手法で、わかりやすく整理されている。
 その結果、ストーリーには自然な立体感と心地よい錯綜感の双方が発生。トータルとして、作品の全域にわたって結構な読み応えを感じさせている。

 くわえて細部のツイストというか意外性の小出しぶりも鮮やかで、さらに終盤に明らかになる事件の大きな真相(これは殺人事件に関するもの限らないが)がかなり強烈だ。

 ……なるほど処女作でこの腹応えと完成度だったら、MWA新人賞なんか軽くとれるだろ、という感じである。

 なお個人的にすごく好感がもてたのは、あいからわず「卑しい街」が立ち並ぶ1990年代のアメリカ社会のなかで、それでもその現実のなかで主人公テイラーがちゃんと彼なりにきっちりとモラルの線引きをしようとしていること。
 テイラーは、心の弱さやどうしようもない思いゆえに道を踏み外してしまい、のちにそのことを恥じるような人間には極力、寛容だ。しかしその一方、きれいだけじゃ生きられないと最初からうそぶきにかかるずるい手合には、すごく厳しい。
 このボーダーラインの使い分けがすごい印象的だ。これはクライマックスを経て、まったく別個に作中に配置された某メインキャラふたり、その双方の差分で改めて明確に読者の前につきつけられる。
 あと、わずか数ページのラストの締め方も、本っ当に……いい!

 でもって、この作者ハウスライト、結局日本にはこれ一作しか紹介されなかったようで、今にしてようやく「なんで!?」と声を大にして叫びたい気分(涙)。
 これはまあ、たぶんきっと、90年代半ば当時の本邦の翻訳ミステリ界は例によってスカダーやらスペンサーやらタナーやらが席巻して、とても「ニューカマー」の参入する余地がなかったんだろうねえ……。
(ちなみに本作では作中で主人公テイラーが、R・B・パーカー(の私立探偵=スペンサー)を揶揄する場面があり、新人作家が不敵な、しかしそういう生意気なことをするだけの実力はたしかにあるぞ、という感じなのだが、まさかこの辺からアメリカの出版エージェントそのほかから「こんな無礼なルーキーの本出すな」とかハヤカワに圧力がかかった……とかいうようなコトはないよな?)

 英語のWikipediaを見ると、作者は四半世紀を経た近年もまだ現役らしい。
 著作はすでに別のシリーズがメインになっているみたいだけど、この私立探偵テイラーシリーズも本作をふくめて5冊を計上。しかもその第三作までが20世紀のうちに書かれたのち、2018~2019年になってほぼ20年ぶりにシリーズが再開し、久々の第四、五作めが上梓されたようだ。どういう流れがあったのか、(現状ではたった一冊読んだだけながら)なんかすごく気になる。
 いずれにせよ個人的にはまったくノーマークだった分、かなり拾いもののウレシイ一作だった。文句なしに優秀作品で、オマケなしにこの評点。

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