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ミステリの祭典

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エンド・クレジットに最適な夏
別題『青春探偵ハルヤ』

作家 福田栄一
出版日2007年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/03/18 05:52登録)
(ネタバレなし)
「俺」こと貧乏大学生の淺木晴也は友人の窪寺和臣の仲介で、臨時のトラブルシューターのバイトを請け負う。依頼の内容は、同じ大学の女生徒、能美美羽が不審者の影におびえているので、その相手を特定して再発を防ぐものだ。だが晴也が動きはじめると、調査のなかで知り合った連中が次々と、新たな事件の種や相談事をもちかけてくる。

 2007年に元版のミステリ・フロンティアで刊行されたのち、2015年秋からの連続テレビドラマ化(番組名『青春探偵ハルヤ~大人の悪を許さない!』)にあわせて改題、文庫化された長編。
 評者は今回、あとの文庫版(『青春探偵ハルヤ』)の方で読了。

 分類すればアマチュア探偵(というか学生のトラブル・コンサルタント)を主人公にした青春ミステリだが、『血の収穫』のキャラクターシフトをベースにしたと文庫版のあとがきで作者が語ることでもわかるように、かなり和製ハードボイルド感も強い。
(主人公・晴也の心情吐露はかなり多めでその意味では「ハードボイルド」ではないが、人情や正義感とドライな人生観・世界観の切り替え&使い分けなど、スピリット的な面では明確にそれっぽさを意識している。)

 もうひとつの本作の特色が、晴也の調査が芋づる式というか藁しべ長者風にどんどん次の事件や案件を引き寄せ、先の依頼が決着しないうちに雪だるま式に、抱えるタスクが増えていくこと。
 ミステリに詳しいらしい作者は、この作法を「モジュラー式」だと、ちゃんと自覚している。

 別の事件の関係者Aから、ほかの事件に役立つ情報や専門知識をさずかったり、違う事件の関係者Bの証言で異なる事件が進展したり……。
 それらの情報や人脈を器用に活用して局面を進展させてゆく晴也のキャラクターは、筆の立つアメリカ作家の私立探偵小説の主人公のようで、本作では主役の年齢設定に即した若い機動力と才気が小気味よい。

 なおこの手のストーリーの組み立て方だと、下手に書くと物語世界がせせこましい箱庭風になりがちだが、情報や伏線のふりわけ方が全体的に巧みで、そういう種類の不満をあまり生じさせない。これは作者の筆力と構成力の賜物であろう。

 やむをえず晴也が腕力沙汰に出る際に、自分の内なる獣性(暴力性)をコントロールするくだりなども、厨二っぽい描写ながら印象的なスゴミがある。
(悪党との対峙や対応も、最後は警察に引き渡して、はい、終わり、ではなく、時には、のちのちの報復やお礼参りなどまで計算に入れて個別の判断をするあたりなども良い。)

 クロージングに関しては正直、思うこともあるが、作者なりの<踏み込み>は充分に意識させられたので、これはこれでよし、としたい。

 本一冊、全体的に偏差値が高いがゆえに、かえって頭が冷えるような面もある長編だが(評者はタマに「よくできた」作品に接してそういう思いを抱くことがある)、作者の力量の一端は充分に実感した思い。
 すでにこの人の本はもう一冊、ちょっとした興味を惹かれて購入してあるが、いずれはもっと本格的に付き合ってもいいかと思えてきてもいる。 

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