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ミステリの祭典

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人を呑むホテル

作家 夏樹静子
出版日1994年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/03/15 01:43登録)
(ネタバレなし)
 コンパニオンガールや水泳コーチなどのフリーター仕事で生活費を稼ぐ23歳の畑野テオリ(テコ)は、BFの会社員、赤司行彦と婚約した。二人はその年の9月5日、行彦の大学の恩師で親代わりといえる坪坂保巳教授夫妻たちとともに、富士山周辺の夏季限定ホテル「精進湖ホテル」に旅行する。そこは10月から6月まで休業。だがその老舗ホテルには「9月30日の業務最終日、泊まった人間の誰かが、いずこかへと消える」という呪いの伝説があった。いったんは東京に戻った一同だが、やがて坪坂夫妻が行方をくらました。夫妻は9月30日に、ふたたび精進湖ホテルに泊まったらしいという経緯が見えてくる……。

 光文社の「女性自身」に昭和57年4月から翌年6月まで「人をよぶホテル」の題名で連載(週刊誌に一年以上!)された長編。「長編恐怖サスペンス」の肩書きで文庫オリジナルで刊行された、本文450ページ以上の紙幅豊かな作品である。

 評者の場合、もしかしたら『Wの悲劇』の元版を少年時代にリアルタイムの新刊で購読して以来の夏樹長編かもしれない(汗)。一年ぐらい前にブックオフの100円棚で見つけ、題名とあらすじが面白そうなので購入。
 今夜、気がむいて通読したが、怪異な失踪の謎に始まって事件の裾野が広がっていく展開はそれなりに読ませた。
 ただし序盤の描写から明るい探偵カップルものを期待すると微妙に違う方向にいってしまい、あれよあれよ、ではある(もちろん主役たちの着地点は、ここでは書かないが)。

 良くも悪くも連載の長期化にあわせて、主人公たちがあちこちにとびまわる際の旅情的な描写でページを稼いだ感じもするが、それでも少しずつ話はちゃんと進めはするので、とりあえず退屈もしないし、話の流れにムダもそんなにない(異論はあるかもしれないが)。女性誌連載ならこれはアリだろうという、ヌカミソサービスが多めの作品ともいえるが。

 ある程度は先読みできちゃう部分もふくめて、物語は二転三転。それ自体はいいのだが、登場人物の絶対数が少なく、さらに主要キャラのポイント的な叙述もしっかり書いておいたのがアダになって、ラストの意外性があんまり意外でないのは残念。
 全体的に長すぎて、ちょっと水っぽい感じはしないでもないが、最後の勢いのある謎解きはまあまあ。クロージングの余韻は、なかなか悪くない。佳作、でしょうな。

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