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ミステリの祭典

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灯籠爛死行
赤江瀑短編傑作選 <恐怖編>

作家 赤江瀑
出版日2007年03月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2021/03/11 16:52登録)
思い出したように創元から3巻でアンソロが出ている最中だったりする。すでに出ている1巻は名作「上空の城」に晩年の「星踊る綺羅の鳴く川」に加えエッセイといえばエッセイ、創作といえば創作で赤江瀑の頂点みたいに思う「海峡」を収録している。こっちも買ってやらなきゃね。光文社3巻アンソロとはカブらないのが、いい。

で光文社3巻アンソロ「恐怖編」。のっけから「花帰りマックラ村」でブルブル。

夜は闇夜、なまじ、星などないほうがいいよ

いやこの作品別に大した怪異も起きない。グロもないし、捻じれに捻じれた邪悪もない。前途有望な好青年の大学生が自ら死を選んだその真相、に過ぎない話なんだけど、「異界」が見えてしまい、その「異界」の誘惑に「潔く」その身を放擲する、「放我」とでもいうべき死のありさまが、実に「怖い」。いや、オハナシなんだけども、そういう異界からの魅惑に捉われたら、この自分だって「いさぎよく」しかねないような、そういう想像を自らにたくましくして「自分が怖い」のである。逆説的なホラーとして際立っている。

で代表作級としてアンソロ収録も多い「海贄考」。海で心中を図った夫婦の夫だけが漁師に拾われて息を吹き返し、その後、その漁師の元で世捨て人として暮らすのだが、何度も海に引きずり込まれるような危うい体験を繰り返す...いや、ミステリとして読んだときに、これほど「凄い」動機もないと思うんだ。京極夏彦に結構トンデモ動機があったりするのだが、そういう「頭で考えたような」動機とは一線を画す「野性の動機」なのである。短い作品なのだが、作者あとがきとして、民俗学者の研究を引いて結末としている。主人公の結末を記述するよりも、ずっと効果的である。すばらしい。(今回読んでて島尾敏雄の病妻ものに近いテイストを感じてた...幻想性も、近い?)

で実は完璧に「ミステリ」な「砂の眠り」を収録。いやこれ、本当にトリックがあるといえば、ある赤江瀑にしては珍しい話。北陸の海岸でスナビキソウ群落を訪ね歩く在野の植物学者の目的は....評者が言うのはなんだけど、ちゃんとしたミステリですよ(苦笑)こんなのも書けるわけだ。

あとは「原生花の森の司」かな。いや本作トリに持ってくるのが本当はいいようにも思うんだ。民話の語り部として有名な老婆が、椿の花に埋もれて自殺した、その理由の話。いや自殺の話だから、後味が悪い、かというと本作はそういうわけではないのが面白いところ。「あの花ざかりの森で、生きるために。陽のあたる花枝のかげに、一枚の茣蓙を敷いて」と椿の花ざかりの森の中に人生がフェードアウトしていくような、幸福感みたいなものが立ち上るのが「怖い」といえば「怖い」し「幸せ」といえば「幸せ」な、複雑な感慨をもよおさせる。

としてみると、この光文社3巻アンソロで未収録の名作短編、というと評者が思い浮かぶのは「鬼恋童」「野ざらし百鬼行」「花曝れ首」「ホタル闇歌」「夜の藤十郎」「阿修羅花伝」「卯月恋殺し」「殺し蜜狂い蜜」「ニジンスキーの手」あたりになるようだ。ここらを創元で収録してくれるとうれしいな。

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