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ミステリの祭典

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湖底の囚人
社会部記者シリーズ

作家 島田一男
出版日1951年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/03/06 14:00登録)
(ネタバレなし)
 中央ホテルの密室で、70歳の資産家・薮田十兵衛が何者かに殺された。容疑は薮田の女中・福間はる子にかかるが、逮捕された彼女は、「私」こと「東京日報」の社会部記者・瀬浦太郎をふくむ衆人監視の白昼、姿なき殺人者? の手で殺害される。薮田やはる子は、12年前に大型ダム建設のために水没した鮫ヶ井村の関係者だった。そして瀬浦のもとには、旧友の画家でやはり同じ村の関係者の河野守夫から、さらなる連続殺人を予見した手紙が届く。瀬浦は社会部部長・北崎の認可のもと、公務の取材として今はダムとなった湖・鮫ヶ池=かつての鮫ヶ井村の地元に赴くが。

 1950~51年の「宝石」に連載されて1951年に書籍化された、スリラー風の謎解きフーダニット長編。
 島田一男の作品群のなかでは、北崎部長をメイン探偵役とする「社会部記者(事件記者)」シリーズの初期長編ということになるのか。

 同時期の「宝石」には、廃刊になった「新青年」から引き取った『八つ墓村』の後編などが連載されている時期であり、奇しくも本作も都会で連続殺人の幕が開き、そのまま物語の主舞台の地方へと移行するというプロットは類例している。

 現地、鮫ヶ井村の周辺では、ダム建設による故郷の水没をめぐって当然のごとく大騒ぎがあり、多額の利権も動いた。売却された土地の利益は村の有力者たち5つの旧家が独占して分割、現状はまだ手つかずで管理されている形になり、ただ村を追われるだけだった旧・村民の大半は旧家の面々に強い嫉妬と憎しみの念を抱いている。連続殺人の惨劇の設定としてはこれ以上ないお膳立てだ。
 
 ただし実に魅力的な謎の提示=不可能犯罪めいた序盤の興味に対してはあまり満足のいく解決が用意されているとはいえず、どちらの真相もほぼチョンボ。特に薮田老人の密室殺人に関してはヒドイ。連続殺人の犯人だけは、まあ意外とはいえる……かも。

 なお評者は本作については「宝石」のバックナンバーの断片を古書店でバラバラに買い集めた少年時代から、ちょっと印象的なタイトルだと思って気になっていた(脱獄囚が水中に沈められる話か? とか)。
 しかし長ずるにつれて意識のなかからこの作品のことは薄れていたが、たまたま先日、出かけた古書市で、1982年の東京文芸社版を200円で入手。購入後、一週間もかけず、読んでしまった。
 謎解きフーダニットとしての評価は先の通りだが、B級の昭和スリラー推理小説としては、とにもかくにもケレン味だけはいっぱいでそれなりに楽しめる。ぎりぎりまで真相の謎解きを引っ張る演出もハイテンションで、あとはこれで解決さえ良ければな、という感じ(笑)。

 あと正直言って、読み終えてもこの題名はよくわからないね。囚人なんて出ないじゃん。冒頭で逮捕されて殺されるはる子は、まだ単に拘留中の身柄だし?

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