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ミステリの祭典

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スピアフィッシュの機密

作家 ブライアン・キャリスン
出版日1984年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/03/03 05:44登録)
(ネタバレなし)
 47歳の傭兵マイケル・クロフツは、戦場で重傷の戦友ヘルマン・ボッシュを安楽死させたトラウマゆえに、稼業から足を洗う。クロフツはロンドンで二十歳前後の美少女パメラ・トレヴェリアンとも恋仲になり、完全に以前の自分から生まれ変わったと思った直後、むかしなじみの海軍佐官のエドワード・シンプソンに再会。そのシンプソンから、無二の戦友エリック・ハーレイとその妻ローラが、地方での農場経営を始めたと聞いた。現状のエリックの境遇に不審を覚えたマイケルは、単身、エリックの農場に赴くが。

 1983年の英国作品。
 キャリスン作品を読むのは、大昔に手にとった『海の豹を撃沈せよ』以来だと思う。
 
 総ページ300ページ前後で、前半のマイケルとパメラのラブコメチックなやりとりなどすごくヤワい(ここではくわしく書けないけれど、小娘にいっぱい食わされるくだりは、これで百戦錬磨のベテラン傭兵かと、いささか呆れた)。
 だからこれは大してカロリーを使わずに読めそうだと甘く見ていたら、中盤から加速度的に読み応えが増大。どんどん面白くなっていく。

 冒険小説、巻き込まれ型スリラー、エスピオナージュ、それら3つの似て非なるジャンルの要素が実に良い感じでミックス。おそらくは作者の得意フィールドであろう海洋活劇への繋げ方も、スムーズかつ好調。紙幅に対しての充実感でいえば、職人作家としてこなれはじめた(脂の乗り始めた)ころのマクリーンの諸作を思わせる感じ。
 おかげで後半のどんでん返しの連続はお腹にもたれる一歩手前だが、まあギリギリついていけないことはない。
(後半はあと50ページ多くてもよかったのでは、とは、今でも思うが。)

『海の豹』は、なんとも余韻のあるあのクロージングが今でも印象に残っているけれど、こちらはまた違う種類の興趣であった。またそのうち、別の作品も読んでみよう。

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