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ミステリの祭典

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崩壊 地底密室の殺人

作家 辻真先
出版日1997年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/03/02 04:32登録)
(ネタバレなし)
 日本屈指の大コンツェルン、三ツ江グループが5年の歳月をかけて建造したジオトピア。それは東京駅八重洲口の地下街の8倍の面積の空間に設置された、地上12階地下30階の巨大構造物だ。「私」こと三ツ江建設設計部の設計技師、五十嵐励(はげむ)は、このジオトピア建造の主力スタッフの一人。五つ子兄弟の長兄である励は、施設の正式オープン前に、弟の勉と武、そして彼らのそれぞれの妻を伴ってジオトピアを訪問するが、突如起きた大地震によって、暗黒の地底に閉じ込められてしまう。そしてそんな彼の周囲には、誰だかわからない女性の刺殺死体があった。

 大地震で閉ざされた地下の広大な暗黒空間を舞台にした、パニックサスペンスものと謎解きフーダニットの興味を掛け合わせた書き下ろし長編ミステリ。
 
 もちろん1995年の阪神・淡路大震災に触発されて執筆したと思われる一作で、各種ライフラインの途絶やトイレの下水不順に困った地上の人々の描写などは、95年当時の現実のニュース報道そのままに思えた。

 ハズすというか手をぬくときの辻センセイは臆面もないので、これもミステリの部分は短編ネタで、あとはパニック描写や男女の不倫回想エピソードなどで水増しか? と思いきや、決してそれだけではなかった(逆に言うと、そういった部分もそれなりの比重を占める)。ただし前半からの眼目となる<暗闇の中で、この死体が誰か判別できない>というなかなか魅力的な謎の提示は、あまり面白く実らなかった印象。

 主人公格の回想描写を活用して謎解きの興味をリアルタイムのものに限定せず、ミステリとしての関心が広がっていくのはうまいが、一方で別個の事件を送り手の都合でつなぎ合わせたような構成にもなってしまった。あまり詳しくは言えないが、この辺は長編ミステリとしては良し悪しであろう。

 最後には大技がほぼ同時に複数用意されているが、評者はそれぞれ前振りから、ひとつは何となく、もうひとつはかなりはっきりと先読みできてしまった。よくいうならば、きちんと前もって布石を忍ばせておいてある丁寧な作りさともいえる。

 仕掛けの手数がそれなりに多いのはいいが、評者の場合、前述のようにある程度、見破ったこともあり、全体としてのダイナミズムに繋がらなかったのは惜しい。

 クロージング~エピローグの余韻のあるビジュアルは、さすが映像作家として何十年も食ってきただけのことはあるという感じ。

 とにもかくにも力作だと認めるにしかず。

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