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ミステリの祭典

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紫色の死地
トラヴィス・マッギー

作家 ジョン・D・マクドナルド
出版日1968年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/03/01 06:07登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと、フロリダのもめごと処理屋トラヴィス・マッギーは、初対面の32歳の人妻モーナ・ヨーマンから相談を受ける。モーナの亡き父カバット・フォックスは地方のエズメレルダ市の名士で、彼女に莫大な遺産を遺したはずだが、それを亡き父の親友で同時に財産管理人、そして今はモーナの夫である58歳の実業家ジャスパー(ジャス)がひそかに不当に使い込んでしまった、という。別の恋人ができたモーナは自由になる金が欲しいので、夫が管理する自分の財産を取り戻してほしいとマッギーに願う。お門違いの相談だと言いかけたマッギーだが、その瞬間、何者かが遠方からモーナを狙撃して、その命を奪った!

 1964年のアメリカ作品。
 トラヴィス・マッギーシリーズの、本国での刊行順で第三弾(翻訳は順不同)。

 本シリーズはだいぶ前に読んだ分もふまえてこれで3冊目だが、良い意味でのシンプルなプロット&描写の焦点が明確な登場人物、などの点で、こないだ読んだ第1作目『濃紺のさよなら』などよりも、ずっと楽しめた。
 
 特にストーリーの前半から、かなりの叙述を費やしてキャラクターが掘り下げられていく本作のメインゲストキャラ、ジャスの黒とも白ともつかぬ人物像がとてもいい。従来のこの手の作品なら憎まれ役が似合いそうなポジションだが、独特な器量の大きさとにじみ出る苦労人ぶりにマッギーが奇妙な友情を感じてしまう心情もよくわかる。本作はこのジャスと、メインゲストヒロインの女子大生イザベル・ウェッブ、そんな2人とマッギーとの関係性が小説的な魅力のかなりの部分をしめていると言っていい。
(マーロウと作品ごとのメインゲストキャラとの関わり合い、ああいった感覚に通じる味わいだ。)

 一方でミステリとしてはなかなか事件の全貌が見えてこないので、これは最後にかなり驚かされるのでは? と期待を込めたが、まさに真犯人はけっこうな意外さ! ではあった。

 ただし前もっての伏線などは希薄で、最後の方でようやく情報をまとめて出してきたりするので、謎解きものとしてはあまり高い評価はしにくい。ガチガチのパズラーじゃなくてもいいから、このネタ(真相)なら、もうちょっとうまい味付けと効果的な演出もできた気もする。
 
 それでもフツー以上にしっかり面白かった。秀作にはちょっと足りないが、トータルでのエンタテインメントミステリとしては十分に佳作にはなっている。

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