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ミステリの祭典

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竜と剣
改題『消えた「亜細亜号」』

作家 檜山良昭
出版日1986年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/02/28 05:39登録)
(ネタバレなし)
 昭和7年に満州国が建国。それから3年後の昭和10年。大財閥、永坂家の令嬢の雪子は強引なお見合い話が嫌で、馬賊になろうと満州に逃げ出す。まもなく雪子は大陸に向かう豪華客船の船上で、新聞記者と称する青年・伊藤秀彦と知り合うが、彼の正体は公安に追われて逃亡中の反政府主義者・安達浩太だった。そんな安達と雪子は、洋上で奇しくも殺人事件に遭遇。安達が絶命間際の被害者からあるものを託されたことから、二人は満州国の進路に関わる巨大な謀略に巻き込まれていく。

 1978年に『スターリン暗殺計画』でミステリ作家としてデビューした作者による、十八番の歴史冒険ミステリ路線の一作で、書き下ろし長編。
 日本国内に不況の風がふきまくっていた薄暗い時代の設定だが、主人公コンビの男女に意識的にラブコメ少女漫画的な文芸を採用したため、作風はかなり明るい。
 
 アナーキストを自覚する男性主人公の安達が、それでもまだ無辜の市民を殺してはいないという設定からして、ああ、これは彼をキレイな身柄のままヒロインと(中略)と大方の見当がつくし、一方で女子主人公の雪子の「時の人である女傑・川島芳子のもとに押しかけ、馬賊の弟子入りしたい」という願望もどこかアホっぽくて陽性。さらに彼ら二人に関わりあってくる主要サブキャラたち、その一部の微温的な描写もまったりとしている。
 80年代の日本の男性作家がクリスティーの『茶色い服の男』みたいなのを書こうとして、こんなのになったんじゃないの、という感じ?

 ここでは詳しく書かないが、作中に用意された政治的な謀略はかなり大がかりなもの。
 その一方で、主人公たちの細部のクライシスからの脱出劇がところどころ甘かったり、かと思うと終盤ではなかなかしつこく二転三転の展開を見せたりと、長所と短所が相半ば。でもトータルとしては、なかなか悪くない。
(ただラストのまとめかたなどは、書き下ろし作品のはずなのに、なんか連載もののクロージングのような印象でもあった。)

 そんなにピリリとしたものはないだろうな、と予見させてしまう作りというのは、この手の冒険スリラー系のジャンルではちょっと問題かもしれないとも思うけれど、まあ数多い国産歴史もの冒険小説のなかに、こういう作品があるのもいいよね、とも考える。
 自分が20~30代の若い頃、そばに国産冒険小説ジャンルに興味を持ち出したガールフレンドでもいたとしたら(なんじゃそりゃ)、たぶんおススメしやすい一冊ではある。

 評点は、なかなか食い下がった終盤のテンションを評価して、この点数で。

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