home

ミステリの祭典

login
十年目の対決
私立探偵サイモン・ケイ

作家 ヒラリー・ウォー
出版日1986年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/02/26 01:46登録)
(ネタバレなし)
「私」こと、元警官で30歳の私立探偵サイモン・ケイは、ずっと年下の幼馴染で今は美人の女子大生ドリア・レイフから相談を受ける。ドリアの実家は少年時代のサイモンも通った漫画本も売っている駄菓子屋で、今もドリアの気のいい両親が店を続けていたが、最近になって地回りの「用心棒代」が急に跳ね上がった。困窮する両親を救うため、ひそかに体を売ることまで考えているというドリア。サイモンは昔馴染みとしてドリアの実家に赴き、集金人のチンピラ、リーチー・ズロを痛めつけて、黒幕の情報を吐き出させるが。

 1982年のアメリカ作品。私立探偵サイモン・ケイシリーズの2作目(邦訳順では4冊目で、これで翻訳は打ち止め)。
 評者もウォー作品はそれなりに読んでいるつもりだが、サイモン・ケイものはこれが初読。もともと本流の警察小説路線とはだいぶ毛色の違うB級ハードボイルドだとは聞き及んでいたが、バイオレンス描写を臆さない敷居の低さは、予想以上であった。
 スピレイン(マイク・ハマー)ならまだ、叙述の随所に格調の高さを匂わせるある種の可愛げがあるが、こちらはそういう種類の衒いも希薄。
 マクベインがカート・キャノンものを上梓するような執筆シフトでウォーが書いたのが、このシリーズということかしらね。

 推理要素は少ない内容で(最後に一応の意外な犯人は設定されているが)、とにかく主人公のサイモンは大藪春彦のヒーローなみに、いったん必要となった荒事に関しては容赦も禁忌もない。

 美人で女房役の秘書アイリーン(ちょっと好み)が事務所のサイモンの机の上に<短期の貸家契約書>を見つけ、アイリーンが読者といっしょに「これなんで借りたの?」と不審がると、実はそれは下司なチンピラのリーチーを監禁&拷問して情報を得るために調達した空間だったりする(笑・汗・怖)。
 うーん、バウチャーが長生きしてこれを読んでいたら、きっと呆れるか、怒りまくったであろうな(笑)。
  
 ただしまあ、ネオハードボイルド時代にあえて書いた50~60年代通俗ハードボイルドの復権(なんやそれ)という感覚は、これはこれで楽しいところもあって。
 特に、成り行きで悪党の巣から救い出したワルの情婦がいくところがなくなった末にサイモンのもとにずっと居つきそうになったので、今度は、困ったサイモンがなんとか(一応は紳士的に)厄介払いしようとするあたり、私立探偵小説にありがちなパターンをひとつひねった感じでオモシロイ。

 とりあえず一冊読んで、ちょっとはシリーズの面白さの勘所もわかったような気もする(?)ので、そのうち、翻訳されている残りの3冊も、機会があったら手にとってみよう。

1レコード表示中です 書評