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ミステリの祭典

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夜の追跡者

作家 結城昌治
出版日1968年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/02/22 06:05登録)
(ネタバレなし)
 ベトナム戦争の行方や沖縄返還問題が人々の毎日の口頭に上る1960年代の後半。法廷で持ち前の正義感が暴走した青年弁護士、五郎高根は一時的に弁護士の免許停止処分を受けていた。そんななか、男女の関係にあるバーのマダム、利奈子が、彼女の知人である別の店のホステス、マヤ子を紹介する。マヤ子は五郎に相談事があり、それはたまったツケの回収を凄腕の取り立て屋「内気なジョー」に依頼したものの、ジョーは取り立てた金をこちらに渡さず口実をもうけて独り占めしてるので、何とかしてほしいというものだった。五郎はジョーこと本名・西野のもとに赴き、適正な金額のマヤ子への支払いを約束させる。だがこれが五郎を、彼の思いも寄らない連続殺人事件にひきずりこんでいく。

 角川文庫版で読了。同書巻末の清水信なる人の解説によると「サンケイ・スポーツ」の1967年12月から翌年3月にまで連載された、新聞小説だったらしい。
 苗字とファーストネームが逆転したような名前で、ジンが好きな半ばアル中、しかし金のためよりは、おのれの心の充足と倫理感を優先して仕事をする主人公・五郎はなかなか魅力的な和製ハードボイルド主人公になっている。

 文体は全体的にハイテンポ。幅広い読者を対象にした新聞小説だけあって会話と改行は多いが、五郎本人の内面(局面ごとに何を思うか、とか、心がけているモットーとか)はさほど直接描写はされず、口に出た物言いや行動の叙述などから読者が彼の心情を読み取るのが基本。この辺はきちんとハードボイルドっぽい。
 
 ミステリとしてのストーリーは、軽くて描写も浅めなようだが、その実、虚偽の証言や不透明な観測などに遮られながらかなり錯綜。ある意味では、中期以降のロスマクみたいな趣もある。

 前述の角川文庫版の清水解説では、全体的に男性キャラが弱い反面、個々の女性が書き込まれた作品、という主旨の賞賛をしている。個人的には言いたいことはわかるが、そこまで単純に二元化できないな、という感じ。
 主人公・五郎のキャラクターの厚みを語る上で意味がある利奈子や、もうひとりふたりのメインヒロインはそれなりに印象的なものの、あとの女性たちは存外に記号的な女性キャラで作中のポジションだと思えた。
(反面、小心もので、堅気になりたいと願う巨漢ヤクザ「殺し屋ハリー」なんか、単発の男性キャラとして、いい味を出している。)

 終盤の展開はパワフルなものの、実は(中略)だった……の真相露呈や、中盤からの(中略)トリック、そして出すのが遅すぎる印象の伏線や手がかり……などなど、まとめかたはちょっとしくじった感じもないでもない。

 ただまあ、二流弁護士を主役に和製ハードボイルドを語り、その枠のなかで事件や物語にミステリとしての興味やギミックを仕込んだ点ではそれなりに込み入った、妙に歯ごたえのある作品ではある。
(楽しめたか? と言われると、諸手を挙げて万歳、肯定というわけには、いかないのだけれど。)

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