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ミステリの祭典

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テロリストに薔薇を
リーアム・デヴリン、マーティン・ブロスナン ほか

作家 ジャック・ヒギンズ
出版日1984年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/02/17 15:25登録)
(ネタバレなし……ただし『鷲は舞い降りた』『非情の日』などヒギンズ諸作を先に読むのは推奨)

 1978年の英国。首相直属である国防情報本部第4課の代表チャールズ・ファーガスン准将は、長年の宿敵である国際的テロリスト、フランク・バリイが暗躍する影を認めた。すでに数名の潜入工作員を対バリイ用に送り込みながら、見破られて殺害されているファーガスンは今度こそ決着をつけたいと思うが、決定打の作戦を見出せない。そんなとき副官のハリィ・フォックス大尉による<アウトローにはアウトローを>の提言から、かつてIRAでの活動でバリイと同陣営だった戦士マーティン・ブロスナンが対抗要員として選抜された。だが現在のブロスナンはフランスの警官を射殺して絶海の孤島の刑務所に投獄中。国防情報部は、ブロスナンに釈放との交換条件でバリイ暗殺をさせる計画を進めるが、そのブロスナンへの説得役に選ばれたのは、元IRAの闘士で第二次大戦中から伝説的な秘話を持つ61歳の大学教授リーアム・デヴリンだった。

 1982年の英国作品。
 悪のアウトローVS正義のアウトローという王道の図式で語られる正統派活劇スリラーだが、中盤までは主人公ブロスナンとその囚人仲間の大物ギャング、ジャック・サヴァリの脱獄作戦ものの興味も大きい。
 しかしなんといっても本作の最大のポイントは『鷲は舞い降りた』での重要キャラで、当時は青年だったが今は老境の域になってまだ事実上、現役の闘士デヴリンが再登場(&副主人公として新主人公を後援)という趣向。
(まるで、コミック版『ゲッターロボ號』最終回以降の神隼人みたいな<(ほぼ)ひとり生き残ってしまった(あるいは置いていかれてしまった)男>の美学だ。)

 これにさらに、1972年時勢のIRAがらみの事件を語る『非情の日』の某・重要キャラもメインの役どころで登場。クルト・シュタイナの名前も『非情の日』の主人公サイモン・ヴォーンの名前も出てくるし、さらには評者はまだ未読だが別作品『エグゾセを狙え』の主人公もチョイ役で顔見せ。
 ファンからは「ヒギンズのお祭り作品」とも呼ばれているらしいが、しかし英国作家は、フィルポッツといいクリスティーといいクロフツといいブランドといい、こういう自作世界でのクロスオーバー趣向が好きだね。どんどんやって。やってやって、やりまくるのよ(©西村寿行『滅びの笛』)。
(ほかにも、かなり曖昧に書かれているけれど、ここは他のヒギンズ作品にリンクするのでは? という箇所が随所に登場する。あー、この作品をしっかり解題したヒギンズマニアの研究成果とか、どっかに公表されてないかな。)

 お話の方はまあ、良くも悪くも中期ヒギンズの一冊で、長所もあれば短所も目について……という感じではある。特に後半~終盤の(中略)のツメの甘さは、作者が悪い意味で(中略)に手加減してるな、という手応えであまり歓迎できない。
 ただし一方で本作オリジナルの脇役キャラたちが全般的にいい味を出していて(バリイの愛人ジェニイ・クラウサーとか、監獄の老看守ピエ-ル・レヴェルとか、後半に登場する中年~老境の女性たちとか)、この辺はヒギンズらしい持ち味が実に前面に出ている。
 それと終盤の(中略)には軽く(中略)したが、この辺も作者がお祭り編の趣向一徹には頼らず、攻めの作品づくりをしたという印象で好感。

 読後にWEBで諸氏の感想を探ると、翻訳刊行当時の北上次郎なんかヒギンズ復活とかかなり褒めてたみたいだね。
 個人的にはそこまではいかないけれど、トータルとしては楽しく面白く読めた、しかし本当にヒギンズの傑作に感じる時の熱さと切なさにはいまひとつ至らなかったとも思う。
(メインヒロイン、アン・マリイ・オーディンが後半にマーティンに注ぐ視線とか、そっちの方向で、ゾクゾクする部分もないではないのだが。)
 
 それでもヒギンズファンなら、いつか読んでおいた方がよい一冊でしょう。できれば、このレビューのなかで名を挙げた先行の諸作は、前もって読んでおいてほしいけど。

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