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ミステリの祭典

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ちか目の人魚

作家 カーター・ブラウン
出版日1966年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2021/02/16 05:00登録)
(ネタバレなし)
「わたし」ことマックス・ロイヤルは、6フィート以上の体躯を誇るハンサムな私立探偵。ゴルフマニアで権威に弱い探偵事務所の所長ポール・クレイマーの下で、働いている。現在のロイヤルの仕事は、若妻ノーリーン・バクスターの依頼で、4日前から行方をくらました彼女の夫ジョーを捜すこと。そんななか、もしやジョーかと思われた殺害された死体が川の中から見つかるが、それはすぐに別人と判明。しかしその死体の素性は、ジョーと同じテレビ局に勤務する技術者ヘンリー(ハンク)・フィッシャーだった。心労のノーリーンのことを案じたロイヤルはバクスター夫妻の自宅に足を向けるが、そこで彼を出迎えたのは、何者が発射した銃弾だった。

 原作は、1961年のコピーライト。
 アル・ウィラー(ウィーラー)、リック・ホルマン、ダニー・ボイド、メイヴィス・セドリッツの<ビッグ4>を筆頭に、日本に紹介されなかったものも含めて、14人ものシリーズキャラクターをかかえていたカーター・ブラウン(英語Wikipedia調べ)。
 だがこのマックス・ロイヤルは本作以外の登場作品が未訳のものの中にもないようで、ついにシリーズキャラクターには昇格しなかったらしい。

 主人公マックス・ロイヤルのキャラクターをおおざっぱに分析すると、目につくポイントは、
①ハンサムで若手の私立探偵である
②口うるさい上司がいる
③その上司の秘書にカワイコちゃんがいて(本書ではクレイマーの秘書で、パットという名の、ボーイフレンドが多い娘が登場)、主人公が絶えずモーションをかけるが、なかなか振り向かない
……などなどだが、①は言うまでもなく先輩キャラのボイドとホルマンがすでにいるし、②と③に関してはアル・ウィラーのおなじみの設定そのまま。
 なおロイヤルには同年代の同僚の調査員トム・ファーリーというのがいて、後半で多少活躍する。こういうポジションのキャラが用意された点は、カーター・ブラウン作品としては新鮮な感じもしたが、これだけではウリにならなかったのだろう。
 要するにテストケース(パイロット編)の本作のみで、お役御免にされてしまった可能性が大きい?
(もし、どなたか「いや、マックス・ロイヤルものはまだあるよ」とご存じの方がいたら、教えてください。)

 お話の方は、物語の前半で登場してくる<とある事物>をめぐって小気味よく進展。マックス・ロイヤルが関わり合うヒロインは多めな気もするが、カーター・ブラウン作品ならこんなものかもしれない。
 後半の方で明らかになる、殺人とは別のとある悪事の実態は、1960年代の初頭にこんなものがネタになったか? まあなったのかもしれないな、という感じであった。
 総体的に、出来は悪くはないが、良くも悪くも地味で手堅い軽ハードボイルド私立探偵小説。
 井上一夫の翻訳が全体的にはマジメな感触なのも、そういう印象を加速させているような気もした。
(マックス・ロイヤルの話し言葉で、自分のことを「あたし」と言わせる演出は良し悪しであった。まあこれは、先輩のボイドやホルマン、あるいはウィラーなどと差別化させたかったのかもしれないが。)

 ちなみにタイトルの意味は、マックス・ロイヤルを自宅の浴室で入浴姿で出迎え、その際に実は<隠れ眼鏡っ娘>だったとバレてしまう作中の某ヒロインのこと。ただしあまりメガネ属性を前に出したヒロイン描写というわけでもないので、よほどの眼鏡っ娘好きでもない限り、そっちの興味で読む必要もないだろう。

 まあまあフツーには楽しめたけれど、カーター・ブラウン諸作の平均値なら、もうちょっとオモシロイよね、ということで評点はこのくらいで。

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